映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『へんげ』


※以下は、2012年に書いた感想です。


大畑創監督、森田亜紀相澤一成信國輝彦出演の『へんげ』。2011年作品。54分。

特技監督は「長髪大怪獣ゲハラ」や『RANGER 陸上自衛隊 幹部レンジャー訓練の91日』の田口清隆

同時上映はおなじく大畑監督による、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を上映した映画美学校卒業制作映画『大拳銃』。

さらに、やはり大畑監督による漫画「ハカイジュウ」のPV。

ハカイジュウ」の原作は読んでないけど、なにか「寄生獣」っぽい漫画なのかな、と(すいません、漫画については無知なので…)。

PVのなかで無残に殺されてる仁科貴さんが、もうお父上の川谷拓三さんにしか見えない(^o^)

使われてるモンスターの鳴き声や足音のSEに聴きおぼえがあったり。

こういうパニック映画観たいですなぁ。


では、まずは『大拳銃』(2008年制作 31分)の感想から。

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倒産寸前の鉄工所を経営する郁夫(小野孝弘)は、霜島(三宅和樹)からの依頼で弟の聡(岡部尚)とともに拳銃の密造をはじめる。しかし取引先の男は理由をつけては代金の支払いを引き伸ばし、さらに大量の銃の製造を要求してくるのだった。

ネタバレちょいあり。


多分16ミリフィルムで撮影されてる映像が、ぴあフィルムフェスティバルなどで観た自主映画を思い出させてなんだかちょっと懐かしかった。

デジタルヴィデオは綺麗だしとても便利だけど、やはりフィルムの色合いはいいなぁ、と思う。

お話自体には特別なにかひねりがあるわけじゃないけど、手堅くまとめてる感じで映画の尺もちょうどよく、とても観やすい。

女性の両腕が銃の暴発でふっとぶところは生々しくてなかなかいいなぁ、と。

男というのはいつの世もデカい銃をぶっぱなしたいのね、って話。

面白かったです。

自動車が爆発する場面がミニチュアで、なるべくバレないようにカットを短めにしてるのが微笑ましい。

大畑監督はどうやら「なるべく見せない」演出をこころがけているようで、それはこのあとの『へんげ』にも踏襲されている。

つづいて、『へんげ』。

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閑静な住宅街に住む若い夫婦。夫の吉明(相澤一成)はしばしば奇妙な発作におそわれていた。医大時代の後輩・坂下(信國輝彦)のカウンセリングも効果はなく、やがてその肉体が変容しはじめる。妻の恵子(森田亜紀)は夫を部屋に閉じ込めるが…。


まず、僕はこの映画を観る3日ほど前に監督や出演者のかたたち関係者のみなさんといっしょに呑む機会を得て、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。

じっさい、この映画と、そのあとにつづけて観た『先生を流産させる会』(感想はこちら)と合わせて、僕としてはなかなかイイ感じの組み合わせでした。

だから個人的にはそれでもうお釣りがくるほど満足なんで、これからあれこれ書くことはちょっと引いた目で自分が観た映画を後日いろいろ反芻して考えたものです。

…と、なんでこんなまどろっこしい前置きをするかというと、つまり偉そうに文句や難癖めいたことをいくつも書くからですが^_^;

そこは友人がかかわっているといったこととは別に、いつものように一観客として語らせてもらいます。

なので、もし予告篇を観て興味をもったかた、大畑創、田口清隆などの名前にピンとくるかた、特撮が好きなかた、自主映画やってるかたetc.はとりあえず観てください(^_^)

DVDもレンタルされています。

予備知識はまったくないまま観た方がより楽しめます。

というか、これは観る前はネタバレできない作品なので、ここから先はこの映画をすでに観たかたに向けて書きます。

そのあたり、あらかじめご了承のほどを。

しかし自分で書いてて思ったけど、これ関係者のかたがたが読んだら「貴様ァ、何様のつもりなんだ%*$×@!!」と発作を起こすんじゃないだろうか、と戦々恐々としておりますが。

でもこちらも作品ととっくみあって精一杯書いたので、勘弁!

そんなわけで、以下、ネタバレあり。


前半は、話はほとんど家のなかで進む。

はじまってしばらくは、発作で大声を上げて暴れる夫の姿にかなりストレスが溜まった。

「頭のなかに蟲がいて、自分に命令する」という夫の訴えなど、僕はこれは精神疾患についての映画なのだと思いながら観ていた。


僕がこの映画でもっとも印象に残ったもの。それは、一言でいえば「大暴れしておいてケロッとした顔」の恐怖。

夫は発作で部屋のなかでひとしきり暴れて妻の顔に痣までつくっておきながら、その翌日にはテラスの椅子に座ってくつろいでいる。

「…怖くないの?」とたずねる妻に夫は「怖くはないなぁ」と答える。妻の顔の痣のことは気にもとめずに。

僕は妻に対する夫のこの無頓着ぶりにひどくリアリティを感じて、非常に不快になったとともに、なにがしかの異常な状態にある人間のそういう様子を意識的に作品に取り込んだのであれば、じつによく観察しているなぁ、と思った。

肉体が異様に変態をはじめた…と思ったら、次の瞬間にはもとの身体にもどっていたりというのも、僕はこの「極端な気分の変化」をあらわしているのでは、などと想像していたのだが。

ただ、もしかしたら作り手はこの描写について、僕が指摘したようなことは特に意識していなかったのかも、という懸念もある。

というのも、「…怖くないの?」「怖くはないなぁ」のやりとりは夫自身が何者かに身体を乗っ取られることの恐怖を指していて、彼が異常な状態で暴れて妻をおびえさせたり傷つけていることは、ここでは問題にされていないから。

妻はあくまでも夫を介護する立場であることにまったく疑いがもたれない。

夫の後輩である坂下から何度も「自分を大切にするように」といわれても、妻は夫に対するいたわりの気持ちをうしなうことはない。

かと思えば、夫をたやすく坂下たちに引き渡してしまうのだが。

それも夫を思ってのことだということはわかるんだけど、このあたりの妻の葛藤が演技のなかでよく見えないので(演じている森田亜紀さんはとてもいい表情をしているのだが)、変わりゆく夫に対して揺れる気持ちというのが伝わってこない。

夫の「もう俺の好きにさせてくれよ」という台詞など、意味が幾重にもうけとれてよかったんだがな。

場合によっては、これは若松孝二監督の『キャタピラー』(感想はこちら)並みにグロテスクな夫婦間の愛憎物語になりえたと思うんだが。

では妻は最初から最後まで夫を愛しつづけていて、そこに迷いや心の揺れはないのだろうか。

だとすれば、彼女はなにをあんなに恐れていたのだろう。

通り魔事件のことがTVニュースで報道されていて、案の定、夫のしわざだったことがわかる。

病院から逃げ出した夫は、家に帰ってくる。

このときのドアを開ける、開けないのやりとりも、見せ方によってはとても怖い場面になったと思うんだけど、妻はあっさりドアを開け、夫をかくまう。

僕は最初この映画を「電波系」のメタファーのようなものを描いているのだと思って観ていたんだけど、どうもそのへんはハッキリしないまま(場面は前後するが)けっこう唐突に夫の「変身」がはじまる。

いきなり腕が化け物みたいになるのだ。

ではこれはモンスター映画なのだろうか。

人間の身体が変容していく様子を描いた映画といって僕がまず思い浮かべるのは、塚本晋也監督の『鉄男』。

あるいは、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』。

『鉄男』(1989) 出演:田口トモロヲ 藤原京 石橋蓮司
www.youtube.com

ザ・フライ』(1986) 出演:ジェフ・ゴールドブラム ジーナ・デイヴィス
www.youtube.com

しかしこの「腕が変身」がまるで「ウルトラセブン」のワイアール星人の回みたいで、ちょっと笑ってしまった(おことわりしておくと「セブン」ウルトラシリーズのなかでは一番怖いです。幼児が観たら確実に泣く)。

あきらかに笑うべきところではないのだが、しかしこの夫の肉体変容場面は、ほかでもカットが切り替わると身体が盛り上がって超人ハルクみたいになってたりして、やはり笑ってしまうのだ。

それは大変いいにくいが、とてもチープに見えてしまっているから。

肉襦袢を着てもだえる夫役の俳優さんの姿を、本気で怖がるのはむずかしい。


この映画には、たとえば『鉄男』の塚本監督のような肉体変容に対するフェティッシュなこだわりが感じられない。

ぶっちゃけ「役者に着ぐるみ着せておけばオッケー」という安易さが目についた。

いや、着ぐるみやミニチュア使った特撮が大変なのは知ってるけれども。

あの“モンスター”の造形にも、僕はこだわりを感じなかった。


『鉄男』はこの映画と同様に低予算の自主映画でありながら、肉体が金属と合体、別のものに変形、なにか異様な物体が自分の身体から生えてくる、ぐちゃぐちゃどろどろ、ぶつぶつ…といった生理的嫌悪感をもよおすような描写がオンパレードの映画で、その異様さこそが売りだったわけだが、この『へんげ』ではタイトルに“変化”とあるわりにはそのあたりはひどくあっさりしている。

とても肉体の変容の異様さを描こうとしているようには思えない。

先ほども書いたように、次第に身体が変形していくというよりは、突発的に怪物化したかと思えば次のカットではまたもとにもどってて、ということのくりかえしなのだ。

これは人間の肉体変容のプロセスとしては、やはりいちじるしくリアリティを欠く。

血しぶきはいっぱい上がるけどぜんぶ合成だし。

体じゅう血のりでベタベタなシーンもまったくないので、つまりグチャドロのホラーへのこだわりがあるようにも思えない。

女性祈祷師のくだりも、これまたあっさり終了する。


夫が変身するのはどうやら夜だけらしくて、日中に祈祷師を追って家を出ていったのに、夜になってからようやく彼女を殺している。

こまかいツッコミだけど、日が暮れるまでいったいなにしてたんだ、と思ってしまった。

あれは、別に祈祷師が家にくるのは夜でよかったのでは。

大畑監督の「なるべく見せない」演出は、低予算で派手なアクションやSFX(特殊効果)を使えないから、という事情もあるが、ホラーのようなジャンルでの見せ方としても理にかなっている。

だからこそ“肉襦袢”にどうにも違和感があるのだ。

見せないのならとことん見せない方向で貫いてもらいたかった。

そして「なるべく見せない」演出であれば、なおさら俳優の演技こそが重要になってくる。

演出面で、俳優をもっともっと追い込められるのではないか。

作り手や演じ手の「狂気」がもっとほしいのだ。

妻が夫のために“食料”を調達するあたりは猟奇的でよかったのだが、完全に怪物に変身してしまった夫を連れて、妻がよりによって人だらけの飲み屋街をウロウロしてるのには「ちょっとまて^_^;」と。


かえってロケ撮影の貧しさが露呈してしまっている。

刑事を出すのはいいが、それならば彼らが夫が通り魔だったということに気づく描写が必要なんではないか。

なんだかいつのまにか現われるので。

高架下で警察と追っかけあうくだりからリアリティは雲散霧消して、完全な「自主映画」になってしまう。

それ以降の展開は、もしかしたら人によってはものすごい衝撃をうけるかもしれないし(さまざまな著名人のかたがたも絶賛コメント寄せてますし)、「面白ぇ〜!!」とアガる人もいるかもしれない。*1

なのでこれはあくまで僕個人の感想なんですが。

僕は「ホラー」としても「怪獣映画」としても満足できなかった。

「頭のなかの蟲」の話もどっかいっちゃってるし。

すでに田口監督の「ゲハラ」を観てしまっている身としては、あのストーリーが完結しないまま終わってしまうエンディングも、悪くいえば二番煎じに感じられてしまったのだ。

それにあの終わり方って、ようするに三池崇史監督の『DEAD OR ALIVE 犯罪者』だよね。

『長髪大怪獣ゲハラ』(2009) 出演:大沢健 藤井美菜 丘みつ子 佐野史郎 田口トモロヲ 渡辺裕之 津田寛治 ピエール瀧
www.youtube.com

DEAD OR ALIVE 犯罪者』(1999) 出演者:哀川翔 竹内力
www.nicovideo.jp

この「最後にちゃぶ台をひっくり返す」やり方は1度きりだから許されるんであって(許されるんだろうか…)、もしも2度3度くりかえされたらさすがに観る気も失せる。

この『へんげ』は、最初に書いたように僕は見ごたえあるサイコサスペンスホラー、たとえば黒沢清監督のある種の作品のような佳作になったと思うのだ。

でも後半、この映画は別物に変容する。

“へんげ”とはそういうことだったのね。

なんか昔、映画だったかアニメだったかでキャラクターがはてしなく巨大化していって地球よりデカくなって終わる作品を観た記憶がある(「トムとジェリー」だったかな?)。

なんかあんな感じでした。

雲を突くほど巨大化した夫。

まぁ意表を突かれて面白がれた人はいいが、これはいったいなにを描きたかった作品なのだろう、と「?」マークが点いてしまうのだ。

ちなみに「トムとジェリー」の方は、軍拡競争に対する皮肉だったのだが。

思うんだけど、せっかく物語のほとんどが家のなかやその近所で進んできたのだから、そこは貫徹させた方がよかったのではないか。

僕はあくまでこれはミニマムな話でまとめるべきだったと思う。

最後に夫婦が住んでいた家が夫と融合して異様に変形するとかさ。

ラストを昔ながらの特撮という大サーヴィスでシメるのならば、それこそミニチュアで夫婦の家が大変なことになるさまをみせてほしかった。

はたして予備知識なしで観た人はどうだったんでしょうね。

「文句があるんだったらお前が撮ってみろ」と罵られそうだけど、いいたいこと書いたんで気が済みました。

そんなわけで、今後も日本でステキな怪獣映画が作られることを心待ちにしております。


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*1:今思えばハリウッドのホラー映画『キャビン』(感想はこちら)のラストを先取りしていたともいえるが(^o^;