※以下は、2009年の劇場公開時に書いた感想に一部加筆したものです。
ポン・ジュノ監督、キム・ヘジャ、ウォンビン出演の『母なる証明』。2009年作品。
『殺人の追憶』に『グエムル 漢江の怪物』と、今やポン・ジュノはかなり気になる監督となっている。
『殺人の追憶』(2003) 出演:ソン・ガンホ キム・サンギョン パク・ヘイル
『グエムル 漢江の怪物』(2006) 出演:ソン・ガンホ ピョン・ヒボン パク・ヘイル ペ・ドゥナ
www.youtube.com
正直言うと、そろそろ軽く愉しめる映画を観たいと思っていたんだが、この作品以上に気になる新作が思い浮かばなかった。
で、雨天ながら「映画の日」ということもあっていつも以上に混雑している映画館で、意外と中高年が多い観客に混じって鑑賞したのであるが。一人だけ妙なタイミングで笑い声を上げる後ろの席のお兄さんとか、ショッキングな場面で毎回椅子から飛び上がる隣のオジサン、イビキかいて寝てるジジィなどに囲まれながら…。
やっぱりというか当然というか、気晴らしや現実逃避のためのお気楽な映画ではなかった。最高に胸クソ悪い映画でした。もちろん最大の賛辞を込めて言うんですが。
冒頭、放心したように歩いてきておもむろに踊り出す母親の姿で始まるこの映画は、やはりオバサンたちの謎の集団乱舞(…なんですかあれは)とともに幕を閉じる。
これは母と子を描いた“ミステリ映画”であり、あるいはもはや“ホラー”と言ってしまっても差し支えないかもしれない。
というわけで、なるべくネタバレしないように気をつけて書くつもりではありますが、たった今重大なネタバレの一つをカマしたこともあって、できれば以下は鑑賞後に読んで頂きたい。
『殺人の追憶』同様、きっかけは一見平和な町で起こった殺人事件である。
ウォンビン演じる知的障害をもった青年が犯人として疑われる。
ただ、ノンフィクションをもとに撮られた『殺人~』と違って、この『母なる証明』では最後に事件の真相が描かれる。
しかしそれでスッキリするかというとそんなわけはなく、これまで以上にガチヘコみするんである。あいかわらず情け容赦がない。
何よりまず登場人物たちの「顔」。これがまた徹底している。
主演のキム・ヘジャ(アウン・サン・スー・チー似)とウォンビン演じるトジュンの母子、そしてトジュンの友人ジンテ(チン・グ)らはいかにも俳優らしい整った顔立ちだが、脇を固めるのはまるでゴジラ松井と温水洋一が合体したような顔で片時も目が笑ってない刑事とか、お笑い芸人いとうあさこクリソツの女子高生、ジンテじゃなくてもおもいっきり顔面にキックをお見舞いしたくなるキモ顔男子生徒など、とにかくユニーク・フェイスのオンパレード。
ユーモラスな場面もあるけれど、しかし随所でゾッとさせられる描写がある。それも単なるショック描写ではなく、俳優たちの芝居から醸し出される不穏な空気。
特にウォンビンの瞳。虚ろで心ここにあらずといった感じの彼の目を見ていると不安に襲われる。
頼れるチンピラ、ジンテが「この町はみんなどこかおかしい。誰も信用するな。俺のことも」と言うとおり、皆何かが狂っているようにも見えるが、しかし認めたくはないけれど、僕たちだって彼らのような顔をしてああいう行動をしているのだ。おそらく。
それと、やたら他人の家に不法侵入する場面があるけど、互いにそういう意識が希薄なんだろうか。まぁ、僕がちっちゃかった頃も昼間は家の鍵なんかガンガン開いてましたが。
『サニー 永遠の仲間たち』(感想はこちら)の女の子たちの一人を演じていたチョン・ウヒがジンテの恋人役で出ていて、濃厚なラヴシーンを演じている。韓国映画のこの手の場面って、ほんとにエロいなぁ。
監督がこだわったという「夜の暗さ」がよく出ていた。あの闇は怖い。
町中を走り回って息子の無実を訴える母の姿には心打たれるが、やがてオカンの愛は暴走モードに突入してゆく。
「男はみんな嫌い」という“米餅少女”の哀しいつぶやき。その彼女が受けるあまりといえばあんまりな仕打ち。
ある程度予想していたとはいえ、『殺人の追憶』を観終わったあとの、あのなんともいえぬ徒労感に再び襲われて胸が潰れそうになった。
ここまで感想述べておいてなんだけど、ハッキリ言って別に観なくてもいっこうに困らない映画だと思う。
でも、「映画」はこんなものも描けてしまうのだということ。
その恐ろしさを知ってしまった以上、これからもポン・ジュノの新作が気になり続けるのは間違いない。
関連記事
『パラサイト 半地下の家族』
『アジョシ』
グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション [DVD]
- 発売日: 2007/01/26
- メディア: DVD