※以下は、2011年に書いた感想です。
ドリームワークスのCGアニメーション映画『ヒックとドラゴン』。2010年作品。
ヒックはヴァイキングのリーダーの息子だが、ひ弱で他のみんなのように勇ましくドラゴンとたたかうことができない。ある日、彼は自分が放ったワナによってシッポが傷つき飛べなくなったドラゴンに出会う。こうして少年とドラゴン“トゥース”の友情と冒険がはじまるのだった。
いまだに劇場で3Dで観られなかったことを後悔してる作品。
だって観ようと思ったときには上映が終わってたんだもんなぁ。
監督は『リロ&スティッチ』のディーン・デュボアとクリス・サンダース。
いわれてみれば、この映画に出てくるドラゴン“トゥース”の口のかたちがちょっとスティッチを思わせなくもない。
オリジナル英語版で主人公ヒックの声を演じているのは、『ファンボーイズ』や『トロピック・サンダー』などで頼りない役を得意としている(?)ジェイ・バルチェル。
ヒックの父親でヴァイキングの頭であるストイックの声は『300 <スリーハンドレッド>』でもマッチョなスパルタ王を演じていたジェラルド・バトラー。
ヒロインのアスティは『アグリー・ベティ』のアメリカ・フェレーラ。
ヒックとともにたたかう若者たちを『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のジョナ・ヒルとクリストファー・ミンツ=プラッセらが演じている。
以下、ネタバレあり。
内容はとてもシンプル。
90分ちょっとの上映時間の中に、出会いと友情、葛藤と別離、そして和解と共生が描かれる。
超巨大ドラゴンとの迫力あるバトルは、やはり劇場でこそ観たかった。
ヒックとトゥースの飛翔シーンは3Dでは最高に気持ちよかっただろうなぁ、とつくづく悔やまれるが。
いつものとおり話が飛びますが、“少年と竜”というと小さな頃に読んだ児童書「エルマーのぼうけん」を思い出します。
3作あって全部持ってました。内容はほとんどおぼえてないけど(ワニのシッポにキャンディを結んで橋を作ってたっけ)挿絵がとても好きだった。
ディズニー映画にもドラゴンはよく登場したし、レイ・ハリーハウゼンのコマ撮り特撮映画でもさまざまなドラゴンが出てきて人間相手に暴れていた。
人間の言葉が話せて賢いドラゴンが出てくる『ドラゴンハート』なんて映画もあったっけ(久しぶりに観たくなった)。
『ドラゴンハート』(1996) 監督:ロブ・コーエン 出演:デニス・クエイド デヴィッド・シューリス ディナ・メイヤー ジュリー・クリスティ ピート・ポスルスウェイト 声の出演:ショーン・コネリー
http://www.youtube.com/watch?v=GdKM1oaRos0www.youtube.com
竜=ドラゴンって架空の生き物なのに、人間にとってはずっと昔から馴染み深い存在。
ときに恐ろしく、ときにユーモラスだったり可愛かったりもする。
この『ヒックとドラゴン』でヴァイキングたちから“ナイト・フューリー”と呼ばれるドラゴン“トゥース”のモデルは黒ヒョウや黒猫らしいけど、たしかにその顔は哺乳類っぽくてカッコ良さと可愛らしさが共存している。
そもそも原作ではヴァイキングとドラゴンが敵対しているという設定はなくて映画独自のものらしいけど、いかにも狩猟民族っぽい改変だよね。
ドラゴンは人間たちの生活を脅かす存在であり、狩る対象。
また、主人公や彼が属する共同体で誰もが乗り越え克服するべき通過儀礼としても描かれる。
そういう意味では野生の動物と同じ扱いで、だから彼らはドラゴンのことを最終的に“ペット”にするのだ(※ライムスター宇多丸さんによれば、英語で“ペスト(疫病)”と“ペット”をかけているんだそうな)。
最初は恐ろしいモンスターとして紹介されていたさまざまな能力を持ったドラゴンたちも、最後には牙を抜かれたように(トゥースの名前は原語ではトゥースレス“Toothless”)可愛いキャラに変貌している。
そこには「神聖な存在」という視点はない。ドラゴンたちへの怖れは猛獣に対するそれであって、服従させ使役することが可能な生き物なのである。
別にそれが悪いというんではないけれど、なんというか非常に人間本位な考え方だな、と。
逆に必要以上に邪悪な存在としても描いていない。
そうそう、この映画にはドラゴンに付きものの“魔法”も出てこないし。
まぁそういう作品は他にもあるけど。
それだけに、だったら最後のラスボスの存在はなんだったのだろう、と思ってしまう。
ハチの巣のようにこの超巨大ドラゴンが他のドラゴンたちを操って獲物を運ばせている、と説明されるけど、では女王蜂に相当するこのボスを倒したらドラゴンたちは解放されて人間たちと仲良く暮らせる、ってことではたしていいんだろうか。
ドラゴンが神話や魔法とは関係ないただの生き物なんだったら、この生態のしくみというのにもちゃんと意味があるはずで、それをデカいドラゴンを一匹退治したらメデタシメデタシというのはちょっと乱暴すぎないか?
鼻先やのどを撫でただけであんなにおとなしくなっちゃうのに、そんなことにも気づかずにドラゴンとぶち殺し合っていたヴァイキングたちってなんなんだ、と。
イカつい外見とは裏腹に意外とこまかく息子に気を遣うヒックの父親ストイックの様子がなんだか可笑しかった。
ああいうところって、いかにもアメリカ人の父親っぽい。
それでも仲間たちを率いる責任から、父は「裏切り行為」を働いた息子を退ける。
この父親とヒックとの関係は、途中でその先の展開が読めるんで正直もうちょっと深みが欲しかったところ。
ヴァイキングは略奪行為を繰り返す海賊、というイメージもいまだに強いけど、一方では優れた職人でもあったそうで、それはヒックが腕力がないモヤシ君でありながら、自分のせいでシッポの一部を失ったトゥースのために見事な手際で尾翼を製作する場面などでうかがえる。
だからこそ職工である彼らがもっている「ドラゴン」という種族に対する敬意というか、畏怖の念みたいなものがもっとしっかりと描かれていたら、さらに味わい深いストーリーになっていたんじゃないかと思います。
生きるために敵を倒すのにも痛みがともなう、ということ。
たしかにあまりシリアスで複雑な話にしてしまうと『もののけ姫』(感想はこちら)みたいになっちゃうから、かぎられた上映時間で映像的なカタルシスを得るためにはああいう展開になるのはわかるんだけれども。
ほとんどイチャモンみたいな感想でしたが、これも劇場で観られなかったから。
映画館で観ていたら、もっと単純にこの映画に感動してたと思う。
ただ、これは十分続篇も作れる話だから(原作はシリーズ物だけど映画とはストーリーはほぼ別物らしい)、これからさらに内容を発展させていくことも可能なんではないかと。
もしそれが実現したら、そのときにはぜひとも映画館で観たいと思います。*1
ヒックとドラゴン 1 伝説の怪物 (How to Train Your Dragon (Japanese))
- 作者:クレシッダ・コーウェル
- 発売日: 2009/11/18
- メディア: ハードカバー