※以下は、2011年に書いた感想に一部加筆したものです。
ケネス・ブラナー監督、クリス・ヘムズワース主演の『マイティ・ソー』。2011年作品。
『インクレディブル・ハルク』『アイアンマン』に続くマーヴェル・コミックスの実写化映画。
神々が住む世界アスガルドを追放されて人間の世界へやってきたソー。超人的な力をうばわれた彼は、宇宙物理学者のジェーンと出会う。
“ソー”というのは北欧神話の雷神トールのこと。ドリームワークスのアニメーション映画『ヒックとドラゴン』でも、ヴァイキングたちからその父オーディンとともに崇められていた。
打ち出の小槌みたいなハンマー“ムジョルニア(ミョルニル)”で敵をぶちのめし、大地をも打ち砕く。
北欧神話にはソーの義兄弟ロキ、戦士たちの魂が集まる地ヴァルハラや世界樹をはじめ、この映画以外でもたとえば神々の黄昏ラグナロクやルーン文字など、ゲームやファンタジーでもおなじみなキャラクターやアイテムがいくつもある。
オーディン(Woden)は水曜日(Wednesday)に、ソー(Thor)は木曜日(Thursday)にその名が残っている。
超常的な力をもつアメコミヒーローの代表格としては「神の子=イエス・キリスト」のメタファーであるスーパーマンがいるけど、ソーはメタファーどころかそのまんま「神さま」。
なかなか豪快なヒーローである。
神々の国から人間の世界にやってくる主人公。彼はそこでさまざまな冒険を繰り広げてついに力を取り戻し、天上に還る。
世界中の神話にみられるパターンである。
これを現代を舞台にやったのがこの『マイティ・ソー』なわけ。
かつてクリストファー・リーヴ主演で映画化された『スーパーマンII 冒険篇』(感想はこちら)でも、スーパーマンは恋人とともに生きる決意をして人間になったものの、ならず者に殴られて血を流し、絶対悪の脅威になすすべもなく“全能の父”に許しを請うて復活した。
この『ソー』でも、自分の力を過信した主人公が父なる大神に力をうばわれて地上に墜ち、そこで自己犠牲の精神を学んで力を取り戻す。
スーパーマンが父ジョー=エルに託されたクリスタルも、ソーが父オーディンから授かった無敵のハンマーもどちらも「男性性」の象徴であり、それをうしなうと彼らは力を発揮できない。
それらのアイテムは「ライナスの毛布」のような役割も担っている。
ライナスは「スヌーピー(「ピーナッツ」)」に出てくるルーシーの弟。
彼はいつももっている毛布をとられると幼児返りしてしまう。
ライナスの毛布は、ちょうど他の子どもたちにとってのヌイグルミやオモチャのようなものだ。
「必殺技」を繰り出す武器であると同時に、主人公の力が宿っている源のような存在。
日本の諸作品でも似たようなアイテムはいっぱいありますね。
日本のかつてのスーパーロボット物(ロボットなのに必殺技使ったり雷や竜巻を操ったりする)などに通じるものもあって。
そんな武器を手にする無敵のヒーローは、まさに「子ども」そのもの。
原作コミックについてもちょっと調べてみたけど、アメコミヒーローって日本のヒーローアニメや漫画に負けず劣らず設定が複雑で(なにしろ連載年数がハンパなく長いので)頭がこんがらがってしまった。なので、いつもどおり映画についてのみ書きます。
以下、ネタバレあり。
この映画には、聖闘士星矢みたいな鎧を着たギリシャ十二神ならぬ北欧の神々が登場するけど、ソーは車田正美の美少年“必殺技”連呼漫画だったらまず主人公にはならないヒゲ面のガチムチ兄貴。
演じるクリス・ヘムズワースはしばしば「『スター・トレック』に出演」と紹介されててたしかにあの映画ではカーク船長の父親を演じてたけど、冒頭すぐに退場しちゃったんでおぼえてない。
なんかステロイド打ち過ぎたブラッド・ピットみたいな顔とガタイ。
ゴールデン・レトリバー系の顔立ちで笑顔がさわやかだったりして、ソッチ方面の人にはまさに「ウホッ、いい男」。
アスガルドから追放されたソーは「神さまパワー」をうしなっていたが、ニューメキシコの田舎町でメシをパクパク大量に食ったりビールにバーボン入れる“ボイラー・メーカー”をグビグビ飲んだりして人間世界を満喫。
やがて地上に落ちたハンマーのありかを知って政府の極秘組織S.H.I.E.L.D.が警備する現場に向かうが、地面にめり込んだハンマーは神通力をうしなった彼には抜けず、ソーはあえなく逮捕される。ジェーンたちの助けで自由の身になったものの、アスガルドからおとずれた義兄弟ロキに父の死を知らされて、みずからの行ないを悔いる。
アンソニー・ホプキンスにナタリー・ポートマン、そして浅野忠信と出演者もなかなか豪華だし、監督はシェイクスピア俳優ですでに何本もの映画を監督しているケネス・ブラナー。
一言で“スーパーヒーロー物”といってもピンキリだけど、大ヒットした「スパイダーマン」シリーズやマシュー・ヴォーン監督による『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(感想はこちら)のようにとてもよく出来た作品もある。
だからこの映画だって「貴種流離譚」として他にないユニークな作品になる可能性もあった。
神さまが地上に落ちてくる、というほとんどコメディにしか思えない設定も、彼のトンチンカンな言動で巻き起こる笑いを交えつつ、主人公の冒険と成長を「万能感にあふれていた幼児期を脱して少年期、青年期を経て挫折を知り、社会に順応していく人間のメタファー」としてとらえれば、感動的な作品に仕上げることもできたはずで。
実際、もしかしたら夏休みに観た小学生が何年後かにこの映画を思い出して「なんか変な映画だったな」と愛着を感じる、というようなことはあるかもしれない。
また北欧神話に興味がある人には「子ども向けスーパーヒーロー物として料理するとこうなるのか」という面白さもあるだろう。
『アベンジャーズ』(感想はこちら)ではインクレディブル・ハルクやアイアンマン、そしてキャプテン・アメリカら他のマーヴェル・ヒーローたちと共演して、キャップとシバきあい、ハルクとドツきあいながら豪腕キャラぶりを発揮していた。
その単純明快なところがけっこう好きなんですが、ただ、この『ソー』は単体の映画としてはきわめてけったいな代物といわざるを得ない。
良い食材がそろってるのに出来上がった料理はマズかった、みたいな。
…なんでこうなったんだろう。
やっぱり脚本かなぁ。
舞台人であり、今までも面白い映画を何本も撮ってるケネス・ブラナーがこーゆー作品作っちゃうというのは、どういうことなのか。
なんか新幹線にでも乗ってる感覚で気軽にアスガルドと人間の世界を行ったり来たりする神さまたち。
会ってまだ間もないのに速攻惹かれ合っちゃう主人公とヒロイン(まぁ、相手が神さまだからってことで、これはいいとしても)。
面白味の足りないバトル・シーンや、かなり中途半端なCG映像。
キャラがまったく立ってない敵の巨人たち。
もう、粗をあげたらキリがない。
これがハリウッド映画デビューという浅野さんもひとりだけチョンマゲみたいな髪型でカッコ良かったけど、ポスターでナタリー・ポートマンたちと並ぶほどの大きな役じゃないし、そんなに活躍もしない。
なにしろ主人公が無敵すぎるので、彼のサポート役であるレディ・シフと3戦士たちがまるで役に立ってない。
コスプレ状態でニューメキシコに降り立った彼らの姿はなかなか間が抜けててよかったんだが。
あそこはもっと主人公に人間世界で苦労させるべきだったと思うんだけど、あっという間に強敵デストロイヤーがやってきて雷神ソーは復活してしまう。
そしてなによりも、一番の見どころであるはずの3D映像は画面が暗すぎて何が映ってんのかよくわからなかった。
しかも『アバター』(感想はこちら)や『トロン:レガシー』(感想はこちら)のような3D用のキャメラではなくて2D用で撮影したものをあとでムリヤリ3Dにした、いわゆる“なんちゃって3D”。
3D効果はほぼ皆無といっていい。
飛び出さないし奥行きも感じられない。
これほど3Dである必然性が感じられなかった3D映画もない。
眼鏡の上にかけた3D用眼鏡がしょっちゅうカクッカクッとずり落ちて、映画観ながら発狂しそうになった。
そんなに不便なら2Dで観ればいいのだが、驚くべきことに僕が住んでる地域では2D版がやってなかった。
観ようとしたら強制的に2000円以上のチケット代をとられるわけだ。
…ナメた商売だなぁ。
映画の出来が出来だっただけに、観終わってからなんかムカついてきた。
予告篇でやってた、同じようなアメコミ原作の『グリーン・ランタン』もなんだかなぁ、って感じだったし(作品の本篇は観てませんが)。
CGにしか見えない風景の中で登場人物たちがどんなに派手な立ち廻りをしても、ぜんぜん燃えないんだよね。
わずかに印象に残ってるのは、人間になったソーと他の人々とのユーモラスなやりとりや、ナタリー・ポートマンが演じるジェーンといっしょにいてソーのハンマーのことを「ムニュムニュ?」とかいってる眼鏡っ娘がちょっと可愛かったことぐらい。
特にクライマックスのアスガルドでの戦いのシーンは、ほんとどーでもよかった。
これは致命的だよなぁ。
ムキになって怒るのもはばかられるような無邪気な感じは憎めなくもないんだけどさ。
でもこれは本来「夏休み超大作」として鳴り物入りで全国公開されるようなレヴェルの作品じゃないと思う。
『アイアンマン』はカッコ良かったしおおいに楽しめたけど、これはちょっとヒドい。
これだったら僕は断然『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の方をお薦めします。
以上は2011年に書いた感想、でした。
だいぶおかんむりですが^_^;あれから観かえしてないのですでに内容はよくおぼえていません。
その後、おなじ年に『キャプテン・アメリカ』(感想はこちら)、そして翌2012年には『アベンジャーズ』が公開されて、これまでの鬱憤もあったからかついに僕はキレてしまった。
さんざん待たせといてコレかい!!と。
もうこの手の映画は観るのやめようと思っていたところに、今年は『アイアンマン3』(感想はこちら)の公開。
…観に行きましたよ。
で、『アベンジャーズ』でなんだかもうどうでもよくなってしまったので、鉄男3の方はふつうに楽しめました。
まぁ、あいかわらずいろいろヒドかったですが。
で、来年2014年にはこの『マイティ・ソー』の続篇が公開されるし、その後も続々と関連作品が待機している。
2020年ぐらいまで決まってるそうです。
ラインナップを見るだけでため息が出てきてしまうぐらい。
なので、それらすべてを観ることはさすがにないな、と思っています。
なんだろうな、ほんとならこういう映画がいっぱい観られるのは嬉しいはずだし、実際このアメコミ映画バブルにハシャいでる人たちヘ(゚∀゚*)ノもいるようだ。
だけど、正直僕はそろそろ飽きてきました。
今後も、これぞ!っていう作品にいっこうにめぐりあえなければ、とてもおつきあいしてられないなー。
とか言いながら、どーせまた観に行ったりするんだろうけど。
…きりがないですなぁ。
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