※以下は、2009年に書いた感想に一部加筆したものです。
犬童一心監督、広末涼子、中谷美紀、木村多江、西島秀俊出演の『ゼロの焦点』。
昭和32年。結婚して7日目の禎子(広末涼子)は、仕事で金沢にむかったまま連絡が途絶えた夫(西島秀俊)の足あとをたどる。そこで彼女が知ったのは、夫の別の顔だった。
「小説を読む」という習慣がないもので毎度のように無知を晒しますが、松本清張といえば下唇伸ばした竹中直人のモノマネしか知らず、作品をまともに読んだことがありません。江戸川乱歩との共編である「推理小説作法」を読んだことがあるぐらい。
なので“ゼロの焦点”という題名の意味もよくわかんなかったりする。お恥ずかしい限りですが。
また野村芳太郎監督の1961年版映画やTVドラマも未見。映画の『砂の器』『張込み』『疑惑』はTV放映やヴィデオで観てそれぞれ事件の真相もなんとなく憶えているけど、何しろずいぶん前のことなんで細かい内容までは思い出せない。
さて、推理ドラマだから【ネタバレ】はマズイと思うんだけど、スミマセンがこれ以上読むとわかっちゃうかもしれないのでご注意を。
あいにく主演の『ぐるりのこと。』は未見だけど、隠れファンがけっこう多いとおぼしき今や「薄幸女優」といえばこの人な(?)木村多江と『嫌われ松子の一生』や『自虐の詩』でいろいろ大変な目に遭うヒロインを熱演した中谷美紀、さらに最近では『鍵泥棒のメソッド』(感想はこちら)に出ている広末涼子という魅惑の女優陣が繰り広げる大変豪華なサスペンスドラマ。
土ワイとか火サスとか、実はちゃんと観たことがないので勝手なイメージで言ってますが、松本清張といえば「2時間ドラマ」。そうするとこの映画を観ながら感じたデジャヴというか、“メロドラマ”チックでいかにも“ザ・サスペンス”な作劇(お約束の切り立った崖も出てくる)というのも一種の先祖返りなのであろうかと。
大真面目に作られてるんだけど、一方でとてもよく出来たパロディにも見えました。いや、悪口ではなく。
「人の死を見てきた男」のわりにはうかつ過ぎる西島秀俊とか、妻を愛してるんだかいないんだかよくわからない鹿賀丈史(会社の下の者にとってはこの人の行動は迷惑この上ない)など疑問点もなくはないけど、最初に書いたとおり原作を読んでないのでどのくらい話が端折られてたり改変されてるのかはわからない。
かつての『疑惑』における岩下志麻と桃井かおりの大迫力には及ばないものの、夫の行方を追ううちに「ぼのぼの」みたいにどんどん恐い考えが浮かんできて汽車の中でぷるぷると戦慄する広末涼子とか、大時代的な芝居が加速度を増して次第に美輪明宏化していく中谷美紀、そしてやっぱり幸薄い木村多江という、この「三大女優・北陸の大決戦」を観てるだけで何やら妙な至福感に包まれたのでした。
不謹慎かもしれないけど、ちょっと前にニュースになった、まわりの男性が次々お亡くなりになっていく「魔性の女」のこと*1も思い出したりして。
「社会派ミステリ」と言われるだけあって、この映画では戦後の日本の世相が事件の背景にある。
ただ、犯行によるメリットが犯人の負うリスクに全然見合ってない気がしたんですが。
正直、広末涼子の鼻から抜けてくような高い声は子どもっぽい印象を受けてしまうんで重厚なドラマ向きではないと思うんだけど、代わりに中谷美紀がかつての高木美保の「華の嵐」風セレブ演技で(スミマセン、この辺うろ覚えで書いてますが)頑張ってくれてるので、それぞれの役柄ごとにメリハリがついてよかったといえるかもしれない。
今後、中谷美紀にはぜひ米倉涼子や小沢真珠と三つ巴のたたかいをして欲しいなっと。
あと「昭和の女顔」がいっぱい出てくるのは監督のこだわりですかね。
これ見よがしに映し出される『地球防衛軍』のポスターに、そっか、この事件があった年にモゲラが鉄橋からぶち落ちてたんだ、なんて思ったりして。
しかしラスト近くの中谷美紀の倒れ方…。短くて非常に単純なカット割りなんだけど思わず笑ってしまった。あの場面で何を考えてああいうキャメラワーク、編集にしたのか監督にぜひ問いたい。
いろんな意味で素晴らし過ぎる映画でしたが、エンディング曲はいただけなかった。…なんで中島みゆきなの?
まぁなんかTVドラマのエンドロールっぽかったけど、映画なんですから。
別に中島みゆきがキライなわけじゃなくて、上野耕路による音楽がよかっただけにとても残念。あそこは劇中で流れてた英語の歌か上野さんの曲を流すべきでしょ。
タイアップなのはわかるんだけど、なぜ作品に合っていない曲をわざわざ付けるのだろう。
ほんとに、邦画や洋画のエンドロールに作品の雰囲気をブチ壊す歌を無理矢理ぶっこむの、いいかげんやめてもらえませんかね。作品の完成度を著しく落としてるのがわからないんだろうか。
映画会社とか配給会社の選曲のセンスのなさと、「映画」をたかが広告塔代わりとしか見ていない、スポンサーの観客をナメた態度には今さらながらウンザリする。
映画というものに対して再考を促したいです*2。
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