映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

※2019年の“はてなダイアリー”終了に伴い、2018年9月にブログを移行しました。

『婚前特急』


※以下は、2011年に書いた感想です。


監督:前田弘二、出演:吉高由里子、浜野謙太、石橋杏奈加瀬亮青木崇高榎木孝明吉村卓也の恋愛コメディ『婚前特急』。2011年作品。

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5股を掛けてる性格の悪いOLのチエ(吉高由里子)は、友人の何気ない一言で付き合っている男たちを“査定”することに。ところが事態は思わぬ方向に展開してゆく。

以下、ネタバレありです。


恋すてふ(ちょう) わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
(「恋している」という私の噂がもう立ってしまった。誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめたばかりなのに)*1


吉高由里子という女優さんは、話題になった『蛇にピアス』でその存在を知ったんだけど映画自体は観てなくて、TVドラマで目にしたことはあったけどやっぱりちゃんと観たことはなくて、もっぱらトリスハイボールのCM*2やたまに見かけるヴァラエティ番組のゲストでの不思議ちゃんぶりで認識していました。

蛇にピアス』(2008) 監督:蜷川幸雄 出演:高良健吾 ARATA
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なんとなく、面白そうな女優さんだな、と。

で、今回初めて彼女の主演作品を観たんだけど。


まず、しょっぱな電車の前で年下の大学生と長々キスするバカップルぶりに早くも「しまった、これはオレはダメかもしれない」と思ったのだった。

この作品は吉高嬢のコメディエンヌぶりが評価されてるらしいし、だから思いっきり笑える軽いコメディを想像してたのに、なんというか彼女が演じるヒロインのあまりの調子コキぶりにイライラがつのっていく。

結婚したばっかの友人のとこに入り浸ってグチばっかいってるし。あれいい迷惑だと思うよ。

結婚した友人夫婦が甘えられる姉や兄のような存在になる、というのはよくわかるけど。

僕たち観客は、杏が演じる友人の立場でこの鼻持ちならないヒロインを観察していくことになる。

それにしても、主人公にもかかわらずこれほど感情移入や共感を拒むヒロインも珍しい。

あと、人のこと「臭ぇんだよ」とかゆーな!!!ヽ(`Д´)ノ

「ただのパン工場の工員」とか。


“付き合ってる男たちの査定”というのは、つまりどうでもいい相手から切り捨てていく、ということ。

わぁ、何様なんだこの女。

…何?これはまたしても最近ちまたで頻出している、主人公を甘やかしまくる類いの映画か?と大変残念な気持ちになってきた。


吉高由里子が付き合っている5人の男たちの内訳は……榎木孝明演じる美容室のオーナーで妻帯者の50男。青木崇高が演じる熱しやすく醒めやすい道楽男。イケメンだが薄情な大学生(吉村卓也)。加瀬亮演じる子持ちのバツイチ男。そして、吉高由里子がなんで付き合ってるのか皆目不明なパン工場に勤める加東大介*3似のブサメン(浜野謙太)。

ところが。

常識的にいってまず真っ先にポイされるはずのパン工場の小太り男が浮上してくるんである。

この男、田無を演じる浜野謙太さんはバンドやってる人らしくて蒼井優主演の『ハチミツとクローバー』にも出てたそうだけど、まったく記憶にない。

しかしこの映画ではあまりにもキャラが立ち過ぎてる。

住み込みで勤めていた銭湯の経営者に夜逃げされて(住んでるのにどうやって?)金もなくさまよい、酔った女性を次々とタクシーに乗せてお持ち帰りしようとするほとんど性犯罪者すれすれの田無は、まず現実にこんな奴は存在しないはずだが、しかし、居そうに思えてくるから凄い。

実はこの映画の中で一番調子コイてるのはこの男。

だって、いっとき吉高由里子石橋杏奈を天秤にかけるんですぜ。

何様のつもりだ、てめぇ!!!


パン工場の社長の娘役の石橋杏奈は『時をかける少女』(感想はこちら)で安田成美の若い頃を演じていて「か、かわええ…」と見惚れてしまったんだけど、今回もその可愛さは変わりなく(そーいや青木崇高も『時かけ』出演組だな)。

深夜の特撮ドラマ「MM9」ではちょっと不思議ちゃん入った軽いノリの今風の女の子を演じていてまた違った魅力を醸し出していたけれど、でもこの人はやっぱりどこか生真面目で誠実な女の子の役が合ってるなぁ、と。

彼女が演じるパン工場の社長の娘が小太り男の前でひとつひとつあげる、主人公の「人間的な問題点」にはいちいちうなずかざるを得ない。

じっと相手をみつめるときのまなざしには吸い込まれそうでした。

もっともっと注目されていいと思うし、活躍してほしい女優さんです。

まともな感覚の持ち主だったら、この映画の吉高由里子よりは石橋杏奈を選ぶよなぁ。


…と、主役を差し置いてサブの女優さんを褒めまくってるけど、いやいや、吉高さんだって侮れんよ。

成り行きで石橋杏奈と小太りが付き合うことになって、だんだん面白くなくなってきたヒロインは、加瀬亮をともなって4人で会食。

しかし、百人一首で盛り上がる3人を尻目に、仲間に入れない彼女は次第に目が据わってくる。

ほんと、吉高由里子は笑顔のときも目が笑ってなくてコワい。

この人の職場での偉っそーな先輩ぶり。ああいうねぇさんいるもんなぁ、実際。とても22歳とは思えませんね。


そして世の中のブサメンたちに希望を与えた(?)小太り男を演じた浜野謙太さん。すげぇ役者だ。

でも榎木孝明の扱いはちょっとあんまりだったんではないか。

まぁ、金持っててカッコイイ、あんな熟年男性においしい思いなんてさせてたまるか、という作り手の魂の叫びがきこえてきそうではあったが。

この、ありえない話を強引に「ありえる」ように見せる手腕は率直に素晴らしいと思いました。

後半の怒涛の展開には場内大爆笑。

「こんなに笑わせられるとは思わなかった」というのは僕の近くの席で観てた女性の感想。


いいように使われてた加瀬亮はじめ査定されてた男どもも、吉高演じるヒロインを嫌ってたはずの石橋杏奈も、ラストはなぜかみんな笑顔で祝福。

この新郎新婦、二人とも友だちいないはずなのに。

なんかブラックだ。

正直、途中までは「なんでこんなイケ好かない女の話を観続けなきゃならないんだ」と思ってたんだけど、見事な追い上げでした。

主人公に甘いのはあいかわらずだが。


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*1:せんべいおかき専門店小倉山荘さんの「ちょっと差がつく百人一首講座」より引用させていただきました。

*2:いまではモノマネの方が露出が多いけど。

*3:黒澤明の『七人の侍』の七郎次や『用心棒』の眉毛がつながった頭の弱いヤクザ、小津の映画で軍艦マーチに合わせて敬礼したりしてた往年の名バイプレイヤー。