映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』


※以下は、2010年に書いた感想に一部加筆したものです。


花沢健吾原作漫画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の実写化作品。監督:三浦大輔。2010年作品。

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銀杏BOYZ - ボーイズ・オン・ザ・ラン
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玩具メーカーの営業マン田西(峯田和伸)は三十路間近の素人童貞。そんな彼が同じ会社のちはる(黒川芽以)といい雰囲気になり、ついに素人童貞に別れを告げるチャンスがやってくるのだが…。

いきなりネタバレあります。


原作は雑誌掲載時に途中まで読んでたんで、どんな話なのかはだいたい知ってはいたんですが。

まず観終わって思ったのは「わ、ここで終わりかよ」だった。

メチャメチャ頑張ったのに。ボッコボコにされてまで。
ヒロインのあの一言がすべてを「無駄骨」に換えてしまう。

可愛いのにヒロインがかなり残念なキャラなのも、彼女の最後の「あんまりな」台詞とそれに対する主人公の返答も原作通りではあるけれど、原作はまだそのあとけっこう続くわけで。

映画のあの結末だと主人公はまったく報われない。見事なぐらいあとに何も残らない。

そこが泣けるんだ、って人もいるのかもしれないが。


ようするにこれは『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロになれなかった男の物語である。

タクシードライバー』(1976) 監督:マーティン・スコセッシ You talkin' to me?
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ご丁寧にも部屋の壁に『タクドラ』のポスター貼って、鏡の前でちょっとポーズつけてみたり。

たしかにそうやってボクシングの真似事なんかやってみると、自分はけっこうイケんじゃないのか?と思えたりもする。

一発蹴り食らったら吹っ飛ぶ闘志だけど。

最後にブッ放すのは同じだけど、関係ない奴らをぶち殺しまくっておまけにみんなから褒められちゃうデ・ニーロに対して、この映画の主人公はやりきれない怒りから威勢よくケンカ売ったはいいが、一方的にやられたうえにすべてを失う。


まぁしかし、会社でただ一人の可愛い女の子が自分のこと好きになってくれた、ってだけでもかなり奇跡的なことなんだと思えば、いっときでも夢中になって打ち込むものがあってよかったね、と他人事みたいに考えてはみるものの。

先ほど言ったとおり、ストーリーはなんとなく憶えていたにもかかわらず、映画であらためて観てみてちょっと後悔してしまった。

いや、映画の出来にではなくて内容に。

なんか、心の中に沈殿していた劣等感や鬱屈を攪拌されたみたいで。


取引先の店長の言葉
「そうやってキョドってたらどうにかなると思ってんじゃない?頼むよ大人なんだからさぁ」

ライヴァル会社のエリート営業マン松田龍平がマウント・ポジションとりながら言う捨て台詞
「何もしてこなかった奴が勝てるわけないんだよ」
「…うすっぺらいんだよ、あんた」


どれもがいちいち胸に刺さり、もうヘコむのもメンドー臭くなってきた。

会社の上司や同僚社員たち、妙にカッコイイ社長役のリリー・フランキー、ライヴァル会社のチャラい営業マンや部長役の岩松了など、出演者の演技はマンガ的な誇張を抑えて、あぁ、こういう感じの人たちいるよなぁ、と思わせる。


そしてちょっとトウの立った風俗嬢役のYOU

好きな人の家に行ったらYOUがいて、なんかそーゆう雰囲気になったら嬉しいかヒくか。

個人的には、あんな面倒見のいいお姉さんがいたらいいなぁ〜とは思うけど(最終的な行動に主人公をアオったのはこの人なんだが)。

冒頭の池袋で“ブタ”に遭遇、から延々続く主人公の下ネタ劇、友人の結婚式での『おとうと』(感想はこちら)の笑福亭鶴瓶をしのぐ暴走など、イタくて堪らないながらも笑わせてはくれる。

でも、やはりラストにはあと一波乱欲しかったなぁ。「波瀾万丈」なんでしょう、主人公は。

一本の完結した「映画」としては、あそこは主人公とヒロインの間にムリヤリにでもいまひとつドラマがなければ。

童貞をこじらせた男の下半身にまつわるドタバタをずっと見せられて最後になんの希望もないまま放置プレイでは、松田龍平の言うとおり主人公が「うすっぺらい」人間なのを認めたってだけじゃないですか。

いや、そのとおりだとしても。

…救いがなさ過ぎ。

主人公が敵に負けて終わっちゃう『マッハ!弐』(感想はこちら)と同じだ。

それとも、これも続篇撮ったりするんですか?

今回の一件がきっかけで原作のように主人公がボクシングを始めて真のヒロインが登場するというのなら、また評価も変わってくるんだけど。

黒川芽以(『片腕マシンガール』の人かと思ってたら別人だった。元ケータイ刑事だけど、なんか妙にヴォリューム感のある体型の女優さんですね)が演じる「ちはる」の転落劇も、それならそれで見ごたえありといえるんだが。


みうらじゅん原作、田口トモロヲ監督の「童貞こじらせ系」の映画2本も松江哲明監督の『童貞。をプロデュース』もあいにく観てないんですが、イタいながらも青春時代の可笑しさやほろ苦さが描かれてたり、まだぎり20代ならツブシも効くのかもしんないけど、三十路間近の主人公がダメぶり晒してフォローが一切ない、ってのはちょっと今笑ってらんないので。

SかMかと問われれば間違いなくMですが(何のカミングアウトだ)、しかし映画館で虐められてるみたいな気分になるのはしばらくもういいなぁ、と。


主演の峯田和伸銀杏BOYZのボーカル・ギターの人って話だけど、スミマセン、音楽に疎いんで。

でも友人が絶賛してたとおり、素晴らしい演技でした(そーいえば『少年メリケンサック』にも出てたっけ)。

あのキャラは凄い。巧いっていうより、とにかくイイ。

ただ社会不適合な「ほんとにダメな人」を演じてるんじゃなくて、とりあえず社会生活を営んでいながらそこからはみ出していく男のみっともない部分を、ちゃんと笑いと共感に昇華してる。

ミュージシャンがあんな演技しちゃったら、本職の人たちもうかうかしてらんないですね。

さすが小林薫をして「これいきなりこられたら参ったなぁと思いました」と言わしめただけのことはある。

アイデン&ティティ』観逃したのはもったいなかったなぁ。

次回作はチェックしたいと思います。


ところで、実は花沢健吾の漫画は、僕は「ボーイズ・オン・ザ・ラン」よりもその前の「ルサンチマン」の方が好きだったりする。

「ボーイズ〜」に比べるともうちょっと現実にワンクッション置いてるというか、「ヴァーチャル・リアリティ」の世界を描いてて好みだったんで(『アバター』よりも面白いし『サマーウォーズ』より泣ける)。

主人公のキャラは「ボーイズ~」以上にイタいけど。

「ボーイズ~」のちはるは「ルサンチマン」のヴァーチャル・ヒロインとキャラがほとんど同じ。作者は一度ああいう頭ん中がどこかお花坊な女の子を貶めてみたかったのかもしれない。

こちらもいつか映像化して欲しいです(主人公を演じるのはカンニング竹山あたりか?ww)。


※『ボーイズ〜』はその後、2012年にキャストを一新してTVドラマ化された。

映画版以降の物語も描かれていたようだけど(なぜか平愛梨がヒット・ガールみたいなコスプレでたたかっていた)、残念ながら飛び飛びにしか観られなかったのでその出来についてはなんともいえないです。

どうやら映画版の続篇が作られる予定はなさそうですな。


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