※以下は、2012年のNHK BSプレミアムでの放映時に書いた感想です。
中島哲也監督、深田恭子、土屋アンナ出演の『下妻物語』。2004年作品。
原作は嶽本野ばらの同名小説。
茨城県下妻市。田んぼに囲まれた町に住む竜ヶ崎桃子(深田恭子)は、代官山のブランドショップ「BABY, THE STARS SHINE BRIGHT」で買ったロリータ・ファッションに身を包み、学校でもどこでもいつも独りでロココ時代のおフランスに憧れている。桃子の父親(宮迫博之)が作ったヴェルサーチのニセモノを買いに来たレディースの白百合イチゴ(土屋アンナ)に一方的に気に入られて、ここに“ヤンキーちゃんとロリータちゃん”の奇妙な交流がはじまるのだった。
以下、ネタバレあり。
あたいのマシンが火を噴くぜ!!
公開当時、TVで「王様のブランチ」観てたらこの映画の紹介をしてて、何がどうビビッときたのか憶えてないけど、その日に渋谷まで観に行ったのだった。
映画館のあるパルコは階段まで長蛇の列。隣の席にはロリータ・ファッションの女の子が座っていた。自分とはまったく無縁の世界にもかかわらず(代官山にも行ったことがない)、映画には妙にハマッてしまった。
「がぁぁん!!」となって土屋アンナのフォトブックまで買っちゃったのもいまでは良い思い出。
中島哲也監督の作品のなかでも一番好きです。
browny circus - タイムマシンにおねがい
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しょっぱなから頭悪そうな思い出話ですが、まぁ自分にとってはそんな作品。
理屈よりも「とにかく好き」というのは、僕としては実写の邦画ではわりとめずらしかったりもするんですが。
ところで、以前友だちとこの映画について話したことがあって、彼は「どこが面白いのかわからない」といっていた。
「だってギャグも笑えないし…なにがいいのか教えてもらいたい」といわれた。
ん~と、どう説明すればよいのか困った。
いや、連打される「ギャグ」が面白くない、というのはわからなくもないし、僕だってずっと笑いっぱなしだったわけじゃない(でもけっこうクスクスしてたけど)。
それよりも、さっきいったように“ヤンキーちゃん”ことイチゴを演じた土屋アンナにガツンとキたのだ。
ハマりすぎだと思った。
いまどき自分のことを「あたい」といって、これほど違和感のない人がいるだろうか(^ε^)
おかげで彼女はこの映画を観た人たちから「元ヤンですか?」と聞かれまくったらしい。
もちろん主演の深キョンもこれまでの出演作品のなかでベストアクトだと思う。
このふたりのどちらか一方が欠けていても、この映画は成功していなかったはず。
ネットで読んだほかの人の感想に「キャスティングが逆だったらよかった」というのがあって、見知らぬ人に心のなかで「なにいってんの!?ふたりともこの役だからイイんだろ!!」とツッコミ入れてしまった。
だってそうでしょ?深キョンがケンカ上等のヤンキー役をやったって様にならないし(断言)、あのハスキーヴォイスの土屋アンナが「頭のなかがお花畑」のロリータちゃんを演じるのはムリがありすぎる。
特攻服を着て改造原チャリかっとばしてたアンナが最後にカメラの前でフリフリの服を着るからいいんじゃないか。わかってねーな!
どちらもまるで演じてるふたりのために作られたようなキャラクターである。
つまり、このふたりのケミストリーに僕のなかの「乙女心」がグッと鷲づかみにされたのだ。
そこのあなた、吐かないよーに。
この映画の監督の中島哲也さんだってヒゲ面のハゲたおっさんなんだし。
世のなかのカワイイものの多くはおっさんが作ってるんですから。
それとこれはあまり指摘されないんで書いておくと、中島監督のほかの作品ではかならず人が死ぬけど、この映画では誰も死なないのも地味にポイント高いところ。
「登場人物の死」を利用しなくても感動的な映画は撮れるということを証明してもいる。
と、そんな説明を聞いても友だちは腑に落ちない顔をしていた。
…うん、わかるよ。この映画の深キョンと土屋アンナにピンとこない人には「どこがそんなに面白いのかわからない」のもしかたないのかもしれない。
この映画の魅力はそのままこのふたりの魅力なんだから。
中島監督の次の作品『嫌われ松子の一生』は、僕はけっして嫌いじゃないけど、でも『下妻』の感動まではいかなかったし、さらにその次の『パコと魔法の絵本』はハッキリ「面白くない」と思ったわけで。
どれも狂騒的に小ネタを連打していくタイプの映画で、そういう映画が好きかといったら別にそういうわけではない。
それでも『下妻物語』には物語のなかに「少女たちの友情」というしっかりとした芯があって、どんなにありえないキャラクターたちが登場してもくだらない展開になってもそれがブレないから、そこはやっぱりほかの中島作品とは違うと思うのだ。
それに深キョンと土屋アンナのやりとりはやっぱ面白いよ。「あたいからのハナモゲなんだよ」「はなむけ、では?」「同じよーなもんだろ!ムケようがモゲようが鼻が痛いことには変わりないんだから」とか。
「BABY」の社長(岡田義徳)にイチゴが「お前なにした、目からナニ出した!?」と怒鳴るとことか笑ったもの。
この映画は海外では“Kamikaze Girls”というタイトル(ヒドい英題だけど、土屋アンナ演じるイチゴが特攻服着てるからだろうか)で、けっこうファンもいるようで。
そーいえば、今回「BABY」の店員役で真木よう子が出ていたことをはじめて知ったのだった。いままでまったく気づかなかった(この人も『パッチギ!』で演じてたヤンキーねぇちゃんがとてもカッコ良かった)。
そのくらいあのふたりのヒロインに意識が集中してたってことか。
さっきから主演のふたりのことしか書いてないけど、まぁ内容は大真面目に語るようなものでもないので。
深キョン演じる桃子は、傍から見るといつも独りぼっちの孤独な女の子だけど、彼女自身はそういう自分に満足していてなにひとつ不自由していない。
お金にも困ってないし、パチンコ打てばドル箱積み上げるほど出るし、お気に入りの服に虫食い穴が開いて、それを刺繍で隠すと「BABY」の社長から仕事を依頼されるという、あまりに都合が良すぎてまるっきり現実味のないキャラ。
人によってはそんな彼女の孤高ぶりが憧れなのかもしれないが。
ただ、この作品が荒唐無稽なストーリーでありながら完全に「どーでもいい映画」になるのを免れているのは、「下妻」という実在の町が舞台ということもあるだろう。
そのおかげで生まれた「牛のいる田園風景のなかのロリータ・ファッション」という異色の組み合わせは、突飛で一見デタラメのように思えるヴィジュアルにもかかわらず、似たようなタイプの“ヘンな人々”が大量に出てくる映画たちにくらべても作品内の架空の世界の構築が格段にうまくいっている。
もっとも下妻が舞台といってもこの映画のなかでは誰ひとりとして茨城弁をしゃべらないし、桃子の母親役の篠原涼子のエセ関西弁はヘタ過ぎて耳障りだ。
それでも『嫌われ松子』や『パコ』など、舞台にあまり特徴がなくて作り物めいたストーリーとのあいだにギャップがなくなっていったその後の中島作品とくらべると、ジャスコや牛久大仏、下妻駅から東京の代官山までのアクセスについてなど、ご当地ネタに触れることで不思議な実在感を醸しだしていた。
イチゴに惚れられるフランスパンみたいなリーゼントをした“一角獣の龍二”役の阿部サダヲも、宮藤官九郎関連映画ほどにはウザくなくてほどよい加減なので安心。
荒川良々がトボケた味を出し、出番は多くはないが小池栄子もレディースの頭を貫禄じゅうぶんに演じている。
樹木希林のおばあちゃんもいいキャラしている。
故・水野晴郎も出演。
『パコ』のときみたいに誰が出てるのか、しかもほんとに必要な役なのかもよくわからないのではなくて、たくさんのキャラクターたちがそれぞれちゃんと役割をあたえられている。
僕がこの映画のなにに萌えたかって、それはもちろん土屋アンナなのだが、たとえばヤンキー娘役と、そうなる前のまだイジメられっ子だった頃を演じ分けてるところだ。
黒髪で眼鏡かけてて、学校でイジメに遭ってもひたすら笑顔。
しゃべらなければほんとにおとなしそうな女の子に見える。
チャリンコ漕いで“尾崎”を歌いだすと妙に声に迫力があるんでバレちゃうけど。
イチゴが泣きながら外をさまよっていると、小池栄子演じるレディース「舗爾威帝劉(ポニーテール)」の総長、亜樹美が声をかける。
このときの土屋アンナのおびえた泣き顔がじつに良いのだ。
とてもその後「負ける気がしねぇ」といって暴れてるガラッパチなヤンキー娘と同一人物とは思えない。
アイシャドウと口紅塗りたくってメンチ切りまくるヤンキー娘とスッピン少女のギャップにヤラレたというわけです。
…あ~、主演の深キョンをほったらかしにしてさっきから土屋アンナのことしか書いてない^_^;
でも僕がこの作品を好きな理由の大半は彼女なんだから、そこはお許しいただきたい。
というか、ぶっちゃけ土屋アンナのファンというよりも、僕は多分この映画で彼女が演じた“イチゴ”のことが好きなのだ。
それはちょうど堀北真希のファンというよりも、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズで彼女が演じた東北少女が好きなのと似ているかもしれない。
全篇つねにフリフリのドレスを着ている深キョンは当時ちょっとぽっちゃりしていて、そのモコモコ感がヌイグルミっぽくて彼女が全身から漂わせているホンワカした雰囲気とともに、この桃子という女の子を“珍獣”を見ているような気持ちにさせる。
って、ぜんぜん褒めてないな(;^_^A
ただ“珍獣”といいつつも、「現実から離れて美しいものだけ見ていたい」という彼女の願いは僕にはまったく理解不能なものではない。
むしろわかりすぎるほどわかる。
するとなにか?俺にはヒラヒラのドレスを着る変身願望でもあるんだろうか(違うって)。
友だちなんかいなくても平気、と思っていた桃子はイチゴと友情を育むうちに次第に変化していく。
大切な“ダチ”を助けに行くために仕事の約束をキャンセルしなければならない彼女に「BABY」の社長がする「それはこの仕事よりも大事な友だちですか?」という問いかけは、荒唐無稽なファンタジーだと思えたこの映画がまぎれもない「青春映画」だったことを物語っている。
桃子は一世一代の芝居を打ってレディースたちからイチゴの救出に成功する。
それまでいつも現実から一歩引いていて感情を爆発させることがなかった桃子が見せるこの大芝居は、シリアスな演技をしてもつねにどこかユルさを感じさせてしまいがちな深田恭子が一所懸命大声でヤンキー言葉を駆使してみせる姿(拙いがそれもまたこのキャラクターには合ってる)によって、役柄と演者が見事にかさなり合う。
ありえないキャラクターだった主人公が共感できる人物になっている。
残念ながらというか、その後も土屋アンナ、そして深田恭子ともにこの映画でのキャラクターを超える役柄にはめぐり会えていない(深キョンの「富豪刑事」はこの映画の主人公のヴァリエーションにも思えた)。
いや、1本でもこんな奇跡のような作品をもてたなら素晴らしいことだと思うけれども。
Tommy heavenly6 - Hey my friend
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最初に書いたように、この映画の成功は深田恭子と土屋アンナという正反対のキャラのコラボによって生まれた化学反応のおかげだ。
おそらく、今後どちらか片方だけがおなじような役をやっても巧くいかないだろう。
ふたりがこの映画で互いを受けとめ合ったからこそ、イチゴも桃子もいまだに人気の高いキャラクターになったのだ。
この作品が「青春映画」たりえているのは、撮影当時のふたりの女優の輝きもおなじようにそこに封じ込められているからだ。
彼女たちにはどこかリアルな切実さがあった。
しつこくて悪いけど、それはその後の中島監督の作品からは感じられないものである。
いまでもときどきこのふたりがまた共演してくれないかなぁ、と思ったりする。
土屋アンナはこれまでにも何本か映画に出ているし『さくらん』では主役も務めているが、本職はモデルなので女優業に特に力を入れようという気はないのかもしれないけれど。
『さくらん』(2007) 監督:蜷川実花 出演:椎名桔平 成宮寛貴 木村佳乃 菅野美穂
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イチゴが桃子に語った「伝説のレディース・ヒミコ」がじつはイチゴの創作だったことがわかって、さらにあらたな伝説が生まれるところでこの『下妻物語』は終わる。
ハッタリがハッタリを生み、ついにヤンキーちゃんとロリータちゃんは融合を果たす。
レースいっぱいのヒラヒラのドレスをまとった「伝説のレディース」は、今日も日本のどこかを走っている。
僕はいまでも原付で2ケツしながら走っていくふたりの笑顔を見ると、涙が出そうになる。
どこにも自分とカブる要素がないにもかかわらず。
僕にかぎらず、男性でもこの映画が好きな人は意外といるようだ。
僕の友だちははたしてこれで納得してくれるだろうか。
※樹木希林さんのご冥福をお祈りいたします。18.9.15