映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『僕らのミライへ逆回転』


ミシェル・ゴンドリー監督、ジャック・ブラックモス・デフ出演の2008年公開映画『僕らのミライへ逆回転』。

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レンタルヴィデオ店の店長フレッチャー(ダニー・グローヴァー)は、老朽化した建物をあたらしく建て直すために市から立ち退きを迫られている。ある日、彼は往年のジャズ・ピアニスト、ファッツ・ウォーラーを偲ぶイヴェントに参加するために店員のマイクに店番を任せてでかけるが、そのあいだに店はとんでもないことに。


ミシェル・ゴンドリーの映画を観るのはジム・キャリー主演の『エターナル・サンシャイン』以来だから(最近公開された『グリーン・ホーネット』は観てない)、ずいぶんとひさしぶり。

エターナル・サンシャイン』(2004) 出演:キルステン・ダンスト マーク・ラファロ イライジャ・ウッド 日本公開2005年
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『エターナル~』はたしか記憶にまつわる話で、ケイト・ウィンスレット演じるちょっと不思議ちゃんにジム・キャリーが何度も恋をする、みたいな話だったよーな。

別のいくつかの映画とゴッチャになって、記憶がさだかではないが。

それでも画面がいきなりバタン!と横倒しになって別の場所になったり(これも頭の中で『ザ・セル』とチャンポンになってるけど)、ヴィジュアル的にも斬新でなかなか面白かった気がする。


で、今回の映画も『ミライへ逆回転』なんて邦題がついてるから、てっきり途中で「時間」か「記憶」をヴィデオテープのように巻き戻すような映画かと思っていた。

しかもジャック・ブラック主演ということなので、けっこう笑えるバカ映画系の作品を想像したんだが。

って、実はジャック・ブラックの主演映画をまともに観たことがないんだけど。

おそらく一番有名な『スクール・オブ・ロック』も未見。

ただしょっちゅう顔を見るし、出演作もけっこう知ってる。

この人を最初に観たのは『マーズ・アタック!』だったか。

半ケツで走る頭のヨワそうな長男役を演じていた。

その後観たのは『キング・コング』や『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』。

今では人気スターだけど、彼が生み出した「いい歳こいたバカ」というキャラクターは、その後のハリウッドのコメディに出演する俳優たちに大きな影響を与えたと思う。


さて、この映画の原題“Be Kind Rewind”は「巻き戻してご返却ください」という意味で、フレッチャーが営むレンタルヴィデオ店の店名でもある。

主人公はここの店員のマイク(モス・デフ)で、ジャック・ブラックはその友人のジェリー役。

映画はマイクの視点で描かれるが、どうやら頭がかなりキているらしいジェリーの暴走によってストーリーは動きはじめる。

以下、【完璧ネタバレ】状態なので、すでに観た人かネタバレなんか怖くない♪というかたのみお読みください。


なにやら妄想にとり憑かれているらしいジェリーは、自分が住んでいるトレーラーハウスが停めてある発電所に襲撃をカマそうとマイクを誘う。しかしマイクは「ジェリーを店に入れるな」という店長の伝言にしたがって、途中で彼を置いて帰る。

発電所にひとり残されたジェリーは、電撃に打たれて感電。

翌日、そのままいつものようにマイクの働くヴィデオ屋に行くと、感電で全身に帯びた磁気によって店の貸出し用のヴィデオテープの映像がぜんぶ消えてしまう。
 

まず、この店のヴィデオテープがダメになるいきさつがなんとも漫画チックなので(電気ショックをうけてまだ普通に生きてるジェリーとか、身体に磁気を帯びた彼が立ち小便するとオシッコに金属が吸い寄せられていく描写など)、やはりそういう荒唐無稽なノリを期待してしまう。

マイクは考えた末、代わりに自分たちで映画を撮ってそれを貸し出すことに。

店の常連であるファレヴィチさん(ミア・ファロー)が店長に頼まれて店の様子をうかがいがてら『ゴーストバスターズ』のヴィデオを借りにくるまでにはあと2時間しかない。

そんなわけで、苦し紛れにマイクとジェリーはジェリーの雇い主とともに家庭用のヴィデオカメラとあり合わせの小道具で『なんちゃってゴーストバスターズ』を撮りはじめる。

このあたりは、かつて「アマチュア自主映画小僧」だった自分のような人間には大変微笑ましい。

図書館でほかの人がいる中、無許可で撮ったり、オッサンに女装させてシガーニー・ウィーヴァーの役をやらせたり、ダンボールでミニチュア撮影。


というか、多分わずか2時間のあいだにあの人数であれだけの作品を作るのは、実際にはほぼ不可能なんでは。

小道具や衣裳を準備して撮影、編集。

映画ってのは、思いのほか時間がかかるのである。

完成した作品も、一見素人が撮ったっぽく見せてるけど、カット割りはちゃんとしてるし音声にもブツ切れ感はなくて整っている。

これはどう観ても映画撮りはじめたばかりのアマチュアの作品じゃない。

…なーんて、つまらないツッコミ入れてもしかたないけど。

でもまぁ、観ていて楽しい。


ところが撮影中、キスシーンで問題が発生。

オッサンとキスするのはイヤだ。

女優をさがそう。

近所のクリーニング店に美人の女性がいる。

が、彼女は店の仕事でいそがしいので妹を紹介された。

この妹アルマ(メロニー・ディアス)は「クシャおばさん」みたいな顔した子で、お世辞にも美人とはいえない。

ジェリーも「却下だ」という。


しかし、選択肢は2つ。彼女を選ぶか、オッサンとキスするか。

けっきょく、アルマは撮影隊の仲間入り。

面白いのが、このおブスなアルマが映画を観ているうちにだんだんキュートに見えてくる。

これって、本家『ゴーストバスターズ』の中で、最初はギョロ目で無愛想なオバサンみたいな顔してた受付嬢がじょじょに可愛く見えてきたのに似ている。

実際、最初はとても美人には見えなかったアルマはその明るくてテキパキした仕事ぶりで次第に撮影の中核を担うようになってくる。

マイクが思わずキスしそうなぐらい顔を近づける場面なんか、とてもいい感じ。

この女性の描き方だけでも観ていてとても愉快だった。

「こいつ放射線を浴びたんだ、被曝?」「放射線じゃねぇ!磁気を帯びたの!」というマイクとジェリーの会話のくだりは今ちょっと笑えないけど。


出来上がったのは完全に手作りのホームムーヴィー。しかも上映時間は20分しかない。

しかし、その「勝手にリメイク作品」を観たファレヴィチさんのギャングスタな甥とその仲間たちが「もっとほかの作品も観せろ」と店にやってくる。

やがて彼らの「リメイク作品」は評判になって、大勢の人たちが遠くからわざわざ借りにやってくる。

…この時点で“夢”なんだけどね。

一度でも他人が撮った「アマチュア自主映画」を観たことがある人ならわかると思うけど、お金払ってまで観たいと思うようなものではなかったはずだ。


そもそもこの店で扱ってるのがDVDではなくてVHSヴィデオテープというのが泣かせる。

この映画が作られた2008年の時点では、すでに僕のまわりの友人たちでVHSのヴィデオデッキをまだ持ってる人はほとんどいなかった。

アメリカの田舎町じゃどうなのか知らないけど、VHSの需要ってまだあるのか?

でもここはDVDではなくてVHSでなくちゃならなかったんだろうなぁ。

伝説のジャズ・ピアニストゆかりの建物で、古くなって取り壊されようとしている店。

それを象徴するのは、DVDに駆逐されて滅びゆくVHSこそ相応しい。


といったわけで、彼らは利用客たちの要望で『ラッシュアワー2』『ロボコップ』『ライオンキング』『2001年宇宙の旅』『キングコング』『キャリー』『メン・イン・ブラック』、アフロのヅラかぶって『ボーイズ’ン・ザ・フッド』etc.と、次々と“新作リメイク”を撮りつづけていく。


一方、店長のフレッチャー氏は旅先でレンタルDVD屋をリサーチしていた。

ここでフレッチャーがメモる大型店舗の特徴が、

「映画の種類は少なく同じものばかり多数。棚分けは単純にジャンルごと。わかりやすい制服に胸にはデカい名札。映画に関する知識は特になし」

たしかにそうだな^_^;


こうして店に戻ってきた店長は、「これからはヴィデオをやめてDVDにする」と宣言するが、マイクとジェリー、そしてアルマの3人は奮起して今度はお客さんたちも出演させて作品を量産。

店長のフレッチャーが演じる『ドライビングMissデイジー』には、思わず「ダニー・グローヴァーのセルフ・リメイクか?」とウケたけど、本家『ドライビングMissデイジー』に出演してたのはモーガン・フリーマンだった。失礼。


店の改築費用の目標額まであと一週間という日、なんと裁判所から役人がやってくる。

著作権違反でヴィデオテープを差し押さえにやってきたその人は…!!

…と、なんだか浜村淳状態でほとんどすべてのストーリー解説しちゃってますが。


「勝手にリメイク」が違法なら、オリジナル作品を作ればいい。

ジャズ・ピアニスト、ファッツ・ウォーラーの生涯を描いた映画を撮ろう。

こうしてお客さんたちも巻き込んで、みんないっしょになって映画作りがはじまる。

このあたりから、ちょうど『スウィングガールズ』とか『オーケストラ!』のように、みんなが力を合わせてひとつことに打ち込む、ハートウォーミングな展開になっていく。


みんなで映画を作る。それはとても楽しいひととき。

そして完成した作品を、これもみんなでいっしょに観る。

暗闇の中でプロジェクターの光を一心にみつめる。

これはかかわった人たちが楽しむレクリエーション。

家族とか、友だちといっしょにヴィデオや8ミリを廻して作品を撮って、みんなでワイワイ笑いながらそれを観たことがある人なら、ちょっとウルッとくるところもあるかもしれない。

ラストは映写されてる作品が店のショーウィンドウに映って、外にいた人々もみんな笑いながらそれを観るという、『ニュー・シネマ・パラダイス』的な幸福なシーンで幕を閉じる。


でもなにか感動に水を差すようで悪いけど、やっぱりこれは“夢”だよな、と思う。

そう感じるのは、誰からも注目されず、忘れられていった作品をたくさん知っているからかもしれない。

エンドロールは『SUPER 8』のそれのよう。

映画を作る喜び、それを観る幸福。

これからもそれを信じていきたい。

この映画はそんなことをいっているように思えた。

映画への愛に溢れた作品でした。


スウェーデン製”予告篇 出演:ミシェル・ゴンドリー
上映中にフィルムがダメになっちゃったので監督がひとりで演じてみました(^o^)
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