※以下は2010年に書いた感想に一部加筆したものです。
工藤栄一監督による63年のオリジナル版は、以前ヴィデオで観ました。
ずいぶん昔のことなので内容はまったく憶えてないんだけど、冷静で強そうに見えた(まだ二代目黄門様になる前の)西村晃のぶざまな最期が印象的でした。
『十三人の刺客』(1963) 出演:片岡千恵蔵 里見浩太朗 嵐寛寿郎 丹波哲郎
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さて、三池崇史監督といえば海外でも有名だしファンも多いんだろうけど、正直な話、この監督さんの映画で心から「面白い!」と満足した作品がなかった。
海外でも評価が高いらしい『オーディション』は残念ながら未見。
たしかに哀川翔と竹内力が“元気玉”飛ばし合って話題になった『DEAD OR ALIVE 犯罪者』は“笑撃的”だったけど、あのラスト直前まではフツーのVシネ(いやまぁ、十分狂ってはいるけどさ)だったし。
今や“イケメン俳優”のイメージが定着してる谷原章介がフンドシ一丁でポン刀振り回したり女子高生が立ちションしたり小学生が生首でサッカーしてた『極道戦国志 不動』も、やっぱり狂ってたけど、…狂ってたらなんでもいいのか?
なんかいつも思うんだけど女の人の痛めつけ方がえげつなくて、異常なまでの「女性嫌悪」を感じさせるし。あとスカトロ趣味も一体誰に対するサーヴィスなんだか。
その変態的で悪趣味でハードコアなテイストがウケてるのはわかるんだけど。
いや、文句言ってるわりにはこれまでけっこう観てるんですよ、三池作品は。なんかヤバそうな感じがカッコイイ、というのも理解できるし。
DOA三部作も『ビジターQ』も『漂流街』も『桃源郷の人々』も『殺し屋1』も、『ゼブラーマン』も『妖怪大戦争』も『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』も『ヤッターマン』も、多分それ以外にもあったと思うけど映画館で観た。
あと、翔さんがチワワぶん回したり吉野公佳から「ポンッ」って“産まれる”『牛頭』とかもあったなー。舞台にしときながら名古屋への無関心と悪意に満ちた、あいかわらずふざけた映画だった。
しかしこんだけ観といて満足した作品がないというのは、いくらなんでも打率悪過ぎなんではないか、と。
いや、どれも部分的に面白いとこはあるんだが。『ゼブラーマン』だって途中まではけっこう愉しんで、鈴木京香の“ゼブラーナース”にも笑ったし。
でも観るたびに「不発感」がつのるというか、根本的に俺にはこの監督の映画を面白がる資質が欠けてるんではないかと思い始めたのでした。
『妖怪大戦争』はエキストラで出させてもらったから思い出深いんですけどね。
河童の被り物して、でっかいキュウリ振り回してみんなと一緒に踊りました。
妖怪に扮した物凄い数のエキストラがひしめくステージでの撮影で、まだ小学生だった神木隆之介君に監督がメガホンで「誰もお前のことなんか偉いと思ってねーんだからな!」とサディスティックな笑みを浮かべながら叫んでた。
川姫役の女優さんはハイレグのレオタードみたいな衣装だったんでやぐらの下からお尻が丸見えで、カットのたびにタオルで隠していた。
阿部サダヲが何度も何度も掛け声を繰り返していた。
エキストラにもランクがあって、僕は知人のつてで控え室を使わせてもらえたけど、一般応募の人たちは寒風吹きすさぶなかで長時間待機してなきゃいけなかったりして、凄い世界だなー、って思いました。
そんな感じで、なんだかんだ言いつつ愉しませてもらってきたんですが、ついに『ゼブラーマン ゼブラーシティの逆襲』は仲里依紗がボンデージ姿で出てるにもかかわらず、力尽きてしまって足を運ばずじまい。
それが今度の『十三人~』は妙に評判がよろしいではないか。
でも全篇英語という、無駄に手間暇かけたにもかかわらずイタさばかりが目について誰に需要があるんだかまったく不明だった『スキヤキ・ウエスタン』の前例があるから(その後撮った市川海老蔵主演の『一命』の感想はこちら)、はたしてどーなんだろ、と半信半疑だったんだけど。
…しかしネタバレする前に言っときますが、これは面白い!
僕にとっては間違いなく三池作品の中でベスト。
残酷な場面はあるし(冒頭でいきなりあの『キャタピラー』以上の衝撃が走るんで※この時点ではやくも戦線離脱の人がいるかも)、何しろ野郎どもが殺し合うだけの潤いのない話だから受けつけない人もいるだろうけど、血みどろチャンバラ時代劇が好きなら観て損はないです。
以下、ネタバレあり。
こんなこと言ったら叱られるだろうけど、まずは何より三池崇史が正攻法でこんなしっかりした時代劇を撮ったということが驚き。
ここ数年間に劇場で観た時代劇の中には、殺陣がヘナチョコなどころかまともに台詞も言えてない作品がいっぱいあったので、新作の時代劇にはもう期待できないのかな、と思ってたんだけど、これは久しぶりに手に汗握りました。
さすがに『マーズ・アタック!』みたいな“バーニング・カウ”はやりすぎだと思ったけど(こういう作品に中途半端なCGは要らん!)。
いつもながら役所広司が安定感のある芝居を見せて、他の出演者たちも好演。特に役所さんと対峙する市村正親が素晴らしい。
見どころは多いけど、特に派手な立ち回りが終わったあとのこの二人の決斗は、近年の時代劇史に残る名シーンだと思う。
賭場のシーンでさりげなく“サイレント・サムライ”の名斬られ役、福本清三が出ていた(…と思ったが資料に名前が見当たらないんで僕の見間違いかも)。
べらんめぇ調で参謀役を務め殺陣でキメまくる松方弘樹、豪腕で人体を真っ二つにする伊原剛志など、とにかく一人一人がとても頼もしく見える。この演出力はお見事。音楽の力も大きい。
そしてすでに多くの人が高く評価している稲垣吾郎。
『笑の大学』ですでに役所広司と共演してるけど、ハッキリ言って今までこの人の演技を巧いと思ったことがないし、今も思わない。
なぜドラマや映画に出てるのかわからなかった。
でもこの作品の彼は巧いとかどうとかいうよりも、とにかくとてもイイです。
キャスティングの妙と演出の勝利だけど、もちろんご本人もかなり頑張って演じたんでしょう。
ここ最近観た映画の中で、これほど気持ち良く倒されてくれた“悪人”はいなかった。
SMAPのメンバーの中だけでなく、今まで観たジャニーズ系の人たちの演技の中で突然上位に躍り出た感じ。
しかし、アイドルとしてはこんなリスキーな役をよく引き受けたなぁ。もうゴローちゃん大暴走ですから。生首サッカーもしてるし。
断末魔の「痛ぁい」は最高でした。
役所広司の甥を演じる山田孝之はどんどん堅肥りになっていっててなんかヒゲ生やすと山の熊さんみたいだけど、この人の眼はなんなのだろうか。
『鴨川ホルモー』観た時にも「なんかジャンキーみたいな眼してるなぁ」と思ったんだけど(失礼にもほどがあるが)、今回もその目つきは健在。
若くして生きることに飽きて苛立ってる雰囲気がよく出てました。
途中まで出てたのに気づかなかった高岡蒼甫も弓を射る姿がキマってる。
一人だけ間違えて『スキヤキ・ウエスタン』から抜け出してきたような伊勢谷友介の役は微妙だったけど。元キャシャーンだからか不死身。薪ざっぽでぶん殴られても平気、というマンガみたいなキャラである。
いやいや、刺さってただろ首に刀が。
この人が『七人の侍』の三船敏郎の出来損ないみたいな役を窪塚洋介チックに演じるたびに映画の内容とは別の部分でハラハラした。
この「山の民」のくだりは意味がよくわかんなかったので、よろしければどなたか教えていただけるとありがたいです。
「ウパシ」って何?
吹石一恵はなんで1人2役だったの?
バカ殿に見えたゴローちゃんが「自分みたいな者が将軍になるようでは徳川の世も長くない」と醒めた口調で語るとこなんかはいろんなことを連想しました。
天下太平といわれる時代に、ろくに人を斬ったこともなかった侍たちが互いにデカい刃物で半狂乱になって殺し合い、果てる。
戦いのあとには死体の山。
実に虚しいが、しかしそんな彼らはどこかスッキリした面持ちだ。
下ネタで大変恐縮ですが、いうまでもなくこれは“射精”のメタファーである。
伊勢谷が村の女たちを片っ端からぶっ壊れるまで突きまくるように(勢い余って岸部一徳まで突いてましたが)。
ナマクラ刀をおっ勃ててこの命棒に振ろう。
「今日が一番面白かった」というゴローちゃんの台詞通り、人は本当に生きるか死ぬかの瀬戸際でエクスタシーを感じるものなのかもしれない。
そういう意味では、この映画は実に三池崇史的な作品だったといえるだろう。
見ごたえありました。おみそれしました!
※松方弘樹さんのご冥福をお祈りいたします。17.01.21
※同じ白塗りの顔なので勘違いした人が多いみたいだけど、冒頭で○○が大変なことになってしまう農民の娘役は谷村美月ではなく(たしかに写真だけ見ると見間違えそうだけど、谷村さんは松本幸四郎が演じる尾張藩主の娘役で、斎藤工とともに前のシーンですでに殺されている)、蜷川幸雄のお芝居などに出ている茂手木桜子という女優さん。名古屋の小劇場出身だそうです。