映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『26世紀青年』


マイク・ジャッジ監督、ルーク・ウィルソン主演の『26世紀青年』。

…あいかわらずふざけた邦題だが(原題は“Idiocracy”。「バカによる統治社会」?)2006年作品。日本では劇場未公開。

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すべてが平均的で「普通」の主人公ジョーは、彼が所属する軍の冷凍睡眠実験の被験者に娼婦のリタとともに選ばれるが、1年間だったはずが目が覚めると500年が経過していた。そしてその間に人類はみんな「バカ」になっていた。

以下、ネタバレあり。


あらすじは上に書いたとおりで、主人公はヒロインとともにタイムマシンで元の時代に戻ろうとする。

映画の冒頭でバカはゴキブリ並みに繁殖力が強い、という身も蓋もない事実が描かれる。これがもう、いかにもなホワイト・トラッシュのメタボな男女がヤりまくったあげくにポコポコ赤んぼ作って、子孫がねずみ算式に増えていく。

一方、ちょっとインテリっぽい夫婦はなかなか子宝に恵まれず、けっきょくダンナは人工授精用のマスターベーション中に心臓発作で死亡、こうして“賢い人間”はじょじょに減り、やがて世界はバカの大群に覆われるのだった。

バカ、といっても明るく愉快なバカではなく、もっと深刻な方の「バカ」。


2008年に公開されたディズニー・ピクサーのアニメーション映画『WALL・E/ウォーリー』の舞台は環境破壊が行き着くところまでいった地球で、宇宙船で暮らす自分で自分のことが何もできない肥満体の人類が登場したが、この『26世紀青年』の舞台となるのはまさにあのまんまの世界。

バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』に登場したビフが支配する未来をさらに荒廃させたような感じ。

『ウォーリー』の人間たちは怠け者ではあってもまだ邪気のない人々だったが、この映画の人類はみな知能が退化していてまるでゾンビ。

ジョージ・A・ロメロがかつて映画の中で描いた“ゾンビ”はショッピング・モールをうろつく現代人のカリカチュアだったわけだけど、ここに出てくる「バカ」たちは、白痴的な内容のTV番組を観ながらポップコーンをかじりゲヘゲヘ笑って「うるせぇ、黙れ」が口癖のかなり救いようがない生き物に成り下がっている。

ところかまわず下ネタいってはやはりゲヘゲヘ笑っている。

英語のスペルも忘れて看板に書かれた単語もどんどんテキトーになっている。

見た目は人間なんだが、とにかくまともに会話が出来ない。

ジョーが普通に喋ると「オカマか、てめぇ」と笑われる。


監督のマイク・ジャッジはあの「ビーバス&バットヘッド」を作った人、といわれると、なるほど、と納得する。

ハッキリいってこの映画は、コメディとして観るとキツい。

しかし「ディストピア映画」としては戦慄すべき世界が描かれている。

ジョーは刑務所に入れられ、看守たちもバカなので隙をうかがって脱走するも捕まり、今度はホワイトハウスに連れていかれる。

待っていたのは、ねぇちゃんたちをはべらせたマッチョでガハハな黒人大統領(『エクスペンダブルズ』のテリー・クルーズ)。

おめぇは賢いみたいだから内務長官に任命する!国の問題を解決しろ、さもないとまたムショに逆戻りだ、とムチャにもほどがある要求。

まず作物の不作。

畑を見てみるとバカたちは水のかわりにゲータレードを撒いていた。

なぜならゲータレードには「電解質」が入っているからだ。

電解質がなんだか知ってるのか?」というジョーの質問に答えられる奴はいない。人間が飲んだら身体にいいんだから、作物にもいいんだろうと思っている。

電解質には塩分が含まれているから畑に撒いたら作物は育たない。水を撒かなきゃ。

ジョーがそのことをいくら説明しても彼らには理解できない。トイレに流す水なんか撒けるか!と。

試しにゲータレードをやめて畑に水をやってみると、ゲータレードの会社で働いていた多くの人間が失業して暴徒と化しホワイトハウスに押し寄せてくる。

これはやはり、笑えるというよりもかなりコワい世界だ。


「バカ」を演じている俳優たちの演技がなんだかスゴい。

鋭さのない眼つきとモタモタした喋り方、しかしいきなりテンション高くなって大声あげたりと、すさまじいばかりの「イディオット演技」。

中でもジョーと知り合う弁護士フリート役のダックス・シェパードはご本人の写真見るとわりと男前なのに(ちょっとピース綾部似)、映画ではモノホンの「バカ」に見える。

また、『ギャラクシー・クエスト』や『ダイ・ハード4.0』など、ちょっと頼りなさげなキャラが得意のジャスティン・ロングが物凄く頭が悪そうな喋り方の医師を、『スパイダーマン3』でサンドマン役だったトーマス・ヘイデン・チャーチゲータレードの会社の社長役でそれぞれワンシーン、とても楽しそうにバカを演じている。

と、このゲスト出演陣からして微妙ではあるのだが…。

主役のルーク・ウィルソン(『シャンハイ・ヌーン』や『エネミーライン』などのオーウェン・ウィルソンの弟)は『チャーリーズ・エンジェル』でキャメロン・ディアスの彼氏役だったり、どこでだったか忘れたけどトム・クルーズのモノマネをしていたのを観た記憶がある。

なんとなく顔つきや物腰が『40歳の童貞男』のスティーヴ・カレルっぽいけど、ルーク・ウィルソンの方が若干男前寄りといった感じか。

ともかく、出演者たちはよく知らない人たちばかりだし、ヒロインのリタ役の女優さん(『ブライズメイズ』の花嫁役のマーヤ・ルドルフ。『ブライズメイズ』の感想はこちら)にも見事なまでに華がない。

アメリカでは小規模上映にもかかわらずウケたようだけど。


無能な政府とか、ただ映画館でスクリーンに尻が映って放屁してるだけの映像にバカ笑いしてる観客に対してジョーがいう「大昔、この国の映画にはストーリーがあった。尻が映れば誰の尻で、なぜ屁をするのか考えた」という台詞などはなかなか皮肉が効いてるんだが。

しかし「原子炉にヒビが入ってる」「トイレの水かけとけばいい」という台詞は、今となってはブラック過ぎて日本人の僕らには到底笑えない。

ただ、今だからこそこの映画が描く世界に妙なリアリティを感じるのも事実。

これはシリアスに人類の未来に警鐘を鳴らした作品ではないだろうか(^o^)

それにしても、バカバカいい過ぎて疲れた。

これ以上バカにならないように気をつけたいもんだなぁ、我ながら。


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