『純喫茶磯辺』(感想はこちら)の吉田恵輔監督、高岡蒼甫、田畑智子、小野恵令奈出演の『さんかく』。2010年公開。
倦怠気味のカップルのもとにカノジョの妹が遊びにやってくる。狭いアパートでしばらくともに生活するうちに、15歳の少女の発散する若い色香が主人公の判断力を狂わせていくのだった。
いかにもアタマの悪そうな男が考えたような「夢のシチュエーション」である(脚本を書いた吉田監督の悪口をいっているのではありません。男どもが一度は想像しそうな話だなぁ、ということです)。
なので性的妄想を発露するにはうってつけの映画にも思えるが、劇場公開時はなぜかそそられなかった。
主演が高岡蒼甫だからか?
見るからに女好きな感じのイケメン兄さんに感情移入できるとは思えなかったからかもしれない。
今回観る前に、あるいはこれはもしかしたら逆に「自分のカレシを実の妹にとられるかもしれない」とやきもきする田畑智子演じるカノジョの視点で描かれた作品なのでは、などと想像したりもした。
それはそれで新鮮だ。
しかしそんな僕の予想はかなり意外な形で裏切られることになる。
以下、ネタバレあり。
田畑智子はデビューしてから20年近いキャリアをもっていて今ではシリアスからコミカルまで硬軟演じ分けられるちょっとユーモラスで可愛らしいイメージの女優さんだけど、僕のなかでは相米慎二監督の『お引越し』のあの関西弁のけなげな女の子の印象が強く、どちらかというとインディーズ系で知る人ぞ知るみたいな活躍をしていく人になるんだろうと勝手に思い込んでいたので、その後TVドラマや映画などメジャーな作品にどんどん出演しているのを見てちょっと意外な感じがしていた。
『お引越し』(1993) 出演:桜田淳子 中井貴一 初々しいなぁ。
www.nicovideo.jp
映画で見るのは僕は『ハッピーフライト』以来かな(※この感想は2011年に書かれたものです)。
一方、高岡蒼甫をはじめて見たのは井筒和幸監督の『パッチギ!』で、その後も“不良”役のイメージが強い俳優さんだけど、『パッチギ!』以外で観た彼の出演作品は多分『十三人の刺客』ぐらいだろうか。
『ROOKIES』はドラマも映画も観てない。
それでも妙にこの人が記憶にあるのは、奥さんが宮崎あおいだ(った)からなのかも。
妹役の小野恵令奈にいたっては、映画を観たあとで調べてみるまで彼女がAKB48にいたことも知らなかった。
あの“鼻づまり声”は演技なのか地なのかどっちなんだろう。
あの声がけっこう耳障りだったんだけど、リアルといえばリアルだった。
さて、観てみるとこの映画の主人公はやはり高岡蒼甫であった。
適度に気のいいあんちゃんで、でも学校やバイト先の後輩たち、焼肉屋の店員とかにはやたら偉そーだったりする、どこにでもいそうな男。
わりと男前なんだけど人間としては尊敬する気になれないこういう先輩、僕の昔のバイト先にもいた。
カノジョの方はというと、真面目に仕事しててカレシにも尽くしているが友だちにマルチ商法まがいの話を持ちかけられても疑いもしないような、けっして完璧とはいいがたい、それでもやはりどこにでもいそうな女性。
カレシに「キスして」とせがみ、「今までと違う。前はもっと愛があった」とかいう。
…あぁ、わかるけど、傍から見るとやっぱりイタいな(;^_^A
『さんかく』というタイトルどおりに考えればこのカレシとカノジョとそこに転がり込んだ妹の“三角関係”を描いた物語のはずで、まぁだからちょっとした艶笑話を想像(期待)してたわけです。
んで、たしかに最初の方ではまさにそういう感じでお話はすすんでいく。
小野恵令奈が演じる妹はこれまたそのへんにいそうな女子中学生で、マイペースだし無防備で下着も付けずにシャツから胸の谷間のぞかせてたりする。
そらもう、一つ屋根の下でそんなの見てたら高岡蒼甫でなくてもモヤモヤしてしまう。
蒼甫君は必死で後輩に「俺、別にロリコンじゃねーし」とかいいわけする。
さぁ、盛り上がってまいりました。これからどんな展開が待っているのでしょうか。
先ほど書いたように僕は小野恵令奈というアイドルを知らなくて彼女がほんとに15〜16歳ぐらいの年齢なのかどうかもわかんなかったから、場合によってはけっこうきわどいシーンもあるんではないかとワクワクしながら観てたんですが。
高岡蒼甫が彼女に白髪を抜いてもらってるうちにおもわず抱きしめてしまうところなど、「よしきたっ」とヘ(゚∀゚*)ノ
ふたりが田畑智子演じる姉が眠ってるすぐそばでキスしてしまう場面でついに禁断の扉が開かれてしまうわけだが、実はエロのピークはここなのだった。
そっからふたりの関係はさらにエスカレートして…というこちらの期待に反して、夏休みが終わると妹は実家に帰ってしまう。
この時点で映画はまだ30分をちょっと回ったところ。
え、いなくなるの早過ぎねーか。
このあとどうなんの?
しかし高岡蒼甫はカノジョの妹のことが忘れられず、内緒で電話をかけてしまう。
あぁ、遠距離で…いや、主人公は痛車(うしろに自分の顔が描いてある)に乗ってるからそれで会いに行くとか、そーゆー流れかな。
…と思っていると、おどろきの展開が待っていた。
高岡蒼甫と田畑智子の売り言葉に買い言葉のほんとにどーでもいいような口ゲンカからはじまって、話がなにやらヤバい方向に向かっていくんである。
だって、てっきりカノジョのカワイイ妹とムフフみたいな「ちょいエロ妄想映画」だと思ってたら、なんと「ホラー」になっていくのだ。
これは事前にまったく予期していなかったので非常にコワかった。
もちろん「ホラー」つっても超常現象や幽霊が出てくるわけではないが、気が小さい私をおびえさせるには十分な描写のかずかずであった。
ヴィデオカメラの映像、叩き割られる窓ガラス、そして血ィィ!!
きゃあああ〜!!!
田畑智子と別れることにした高岡蒼甫は、これまでそこそこ穏やかだった態度を豹変させる。
同じ男でも「…えぇ~!?」と引くその切り捨てぶり。
だってそこまでされるほどカノジョの方に落ち度があったわけじゃないし。
一度嫌いになったら顔も見たくないし声も聞きたくない、というのはわかるが、この男が最低なのは、そこに彼女の妹の存在があることだ。
別れたのにその女性の妹とコンタクトを取りつづけようとする神経ってどうなんだろう。
しかも相手は中学生。
だからその後に彼が遭遇する体験は当然の報いでもあるし、物語的にも理にかなっている。
カノジョにした仕打ちとまったく同じことを、今度は彼がされることになる。
とどめの「もう電話しないで」という一言。
すべての元凶はあの「妹」だったのではないか?とも思わせるが、もちろん彼女にすべて罪を着せるのは酷過ぎる。
彼女はたしかにいっとき小悪魔ぶりを発揮するもののやはり普通の女子中学生に過ぎず、男たちの妄想どおりに暴走したりはしない。
30歳の男が15歳の女の子にうつつを抜かしてるのが異常なのだ。
アタマがヨワ過ぎる男がぜんぶ悪い。
そこで主人公は実家に帰ったカノジョの前で反省する。
「おいおい、これで丸く収まっちゃうのか?まわりに迷惑かけ過ぎじゃね?」と思っていると、実は彼はカノジョではなく妹目当てだったことが露見する。今度は姉と妹が乱闘。
ついに殺傷沙汰に発展か?というところで、しかし映画は終わってしまう。
…まぁ、あそこで頭カチ割ったり胸刺しまくったりしちゃったらほんとに救いのない映画になってしまうから、ああいう微妙な終わり方で正解だったのかもしれない。
主題歌は癒し系みたいな曲だし予告篇もそういう作りになってるけど、ちょっとしたドメスティック恐怖映画でした。
「ちょいエロ妄想映画」を観るつもりだったのに^_^;