映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『エクソシスト ディレクターズ・カット版』


ウィリアム・フリードキン監督、リンダ・ブレアエレン・バースティンジェイソン・ミラーデミアン・カラス神父)、マックス・フォン・シドーリー・J・コッブ(キンダーマン警部)、ウィリアム・オマリー(ダイアー神父)、キティ・ウェン(シャロン)、ジャック・マッゴーラン(映画監督バーク)、ルドルフ・シュンドラー(カール)、ジーナ・ペトルーシュカ(ウィリー)、バシリキ・マリアロス(カラス神父の母)、マーセデス・マッケンブリッジ(悪魔の声)ほか出演の『エクソシスト ディレクターズ・カット版』。1973年作品。日本公開74年。ディレクターズ・カット版2000年。

原作はウィリアム・ピーター・ブラッティの同名小説。

音楽はジャック・ニッチェマイク・オールドフィールド(テーマ曲)。

第46回アカデミー賞、脚色賞、音響賞受賞。

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女優クリス・マクニール(エレン・バースティン)の12歳の娘リーガン(リンダ・ブレア)はある時から何かに憑かれたかのようにふるまうようになる。彼女の異変は顕著になるが、病院の科学的な検査でも原因は判明しない。やがて醜い顔に変貌したリーガンは緑色の汚物を吐き、神を冒涜するような卑猥な言葉を発するようになる。悪魔が彼女に乗り移ったのだ。その後、リーガンの前にふたりの神父メリン(マックス・フォン・シドー)とカラス(ジェイソン・ミラー)が訪れ、悪魔祓いを始めるが──。(映画.comより転載)


「午前十時の映画祭13」で鑑賞。

ウィリアム・フリードキン監督の映画は以前『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』を劇場で観ました。

ei-gataro.hatenablog.jp


今回の『エクソシスト ディレクターズ・カット版』は1973年のオリジナル劇場公開版に15分の未使用シーンを追加したヴァージョンで2000年に日本でも公開されていますが、僕は映画館で観たのかDVDで観たのかもはや忘却の彼方で、ともかく一度は観たことは確実なんですが、例のごとくリンダ・ブレアが大変な状態になる以外は内容をあまり覚えていなくて、そもそもホラー映画を普段ほとんど観ないこともあって、今回の上映も当初は鑑賞する予定ではなかった。

ところが、フリードキン監督が今年の8月7日に亡くなってしまったので、追悼を込めて映画館へ。

監督が亡くなったのは偶然ですが、今年はちょっと前にラッセル・クロウ主演の『ヴァチカンのエクソシスト』が公開されたし、12月1日(金) には新作でエレン・バースティンも第1作目と同じ役で出演する『エクソシスト 信じる者』(監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン)が公開されるんですね。今回の上映前に予告篇をやってました。なるほど、だから「午前十時~」でやってるのか。

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さて、ウィリアム・フリードキン監督といえば、『フレンチ・コネクション』(1971年作品。日本公開72年)もそうだし、この映画が作られた70年代頃は撮影中にかなり無茶をやっていた、というようなことを雑誌「映画秘宝」で読んだりしていたので映画史的に興味はありつつも、ファンでもなければ特に注目していた監督でもなかった。

最近の作品を観た記憶もなくて、2003年のトミー・リー・ジョーンズベニチオ・デル・トロ共演の『ハンテッド』になんとなく覚えがあるものの、観たのかどうかさえわからない。

だけど『フレンチ・コネクション』は面白かったから、いつかまた「午前十時の映画祭」でやってほしいし、アル・パチーノ主演の『クルージング』(1980年作品。日本公開81年)も機会があれば観てみたいです。

で、『エクソシスト』なんですが、あらためて観てみて面白かったです。

ローズマリーの赤ちゃん』『オーメン』『キャリー』(感想はこちら)『サスペリア』など70年代に立て続けに作られたオカルト映画の名作の1本として有名だし、さまざまな派生作品を生んだ映画でもありますが、少女リーガンのあの形相や緑色のゲロなどおどろおどろしいヴィジュアルから「メチャクチャ怖い映画」という印象があったけれど、80年代以降のグチャドロなスプラッタームーヴィーや最近のVFXを使った派手な残酷シーンなどに比べると驚くほど抑制が効いていて、僕が大の苦手なデカい音で驚かすこけおどしな場面もない。

思ってたほど血も出ないし、ディレクターズ・カット版で付け加えられたというラストのおかげもあってか、必要以上に嫌な後味もない。

この映画が見事なのは、やはり出演者たちの演技と監督の演出のおかげですね。

「悪魔」という、特に僕ら日本人にはいまいち馴染みが薄い存在を実在する者のように描いて観客の想像力を刺激することで恐怖を生み出す。その手際が鮮やかで、それは『恐怖の報酬』を観た時にも感じたものですが、日常描写を丁寧に積み重ねることでそれが徐々に非日常へと変化していくのが怖いんですね。

最初からわかりやすくてド派手なホラー描写があるのではなくて、映画が始まって冒頭のイラクでのシークエンスが済むと、しばらくは映画女優のクリスとその娘リーガンの日常が描かれて、一方ではデミアン・カラス神父が現在は精神科カウンセラーを務めながらもその仕事に馴染めず、また老いた母のことも心配で信仰も失いつつある様子が交互に描かれる。


マックス・フォン・シドー演じるメリン神父は、冒頭に登場して禍々しい古代の悪霊“パズズ”(字幕ではこの名前は出なかったし、台詞の中にもあったのかどうかわかりませんでしたが)の像を目にしたり、謎のメダルを手に入れる重要な役割だけど、映画の中での登場場面は思っていた以上に短くて、冒頭以降はイエズス会から派遣されてマクニール家を訪れる終盤まで出てこない。それでもとても強く印象に残るのはさすがですね。


前半は、これが悪霊に取り憑かれた少女を描く「ホラー映画」だと知らずに観ていたら通常の人間ドラマかと思ってしまうほど地味で、たとえば映画監督のバークがクリスの家で開かれたパーティで「このナチめ」と言ってドイツ系の男性に喧嘩を売る場面とか、カラス神父が元ボクサーであることなど、映画の本筋となんの関係があるのかわからないような描写に70年代の映画らしさを感じたりも。

クリスの家で働いている若い女性のシャロンや執事っぽいカール、家政婦のウィリー、あるいはキンダーマン警部や、カラス神父と親しいダイアー神父など、必ずしも物語に深く絡むわけではない脇役たちが、単なるモブ以上に描き込まれていたりする。


でも、そうやって登場人物の一人ひとりに肉付けをして生きた人間として描いているからこそ、その後の展開の飛躍に心が離れることなく、妙なリアリティが保たれるんですね。

何かといえばタイパを気にするような現在の目からすると一見まどろっこしいような前半の描写の数々が、恐怖を盛り上げる優れたテクニックとしてとても効果を上げている。

今年は「午前十時~」で『タワーリング・インフェルノ』(感想はこちら)を観たし、これからも『カサンドラ・クロス』の上映が予定されているように70年代のパニック映画やオカルト映画を劇場で観る機会があって楽しいんですが、あの時代の人々が抱えていた不安や、そのわりには物事が今と比べて雑に扱われている感じとか、当時の時代背景がうかがえて実に興味深いし、少々怖くもあるんですよね。

エクソシスト』に感じる怖さというのは、即物的なショック描写(それこそが初公開当時は話題になったのだが)よりも人間が心の中に持つ恐れを増幅するような、不安を煽って精神的にどんどん追い詰めていくような、そういう種類の恐怖ではないだろうか。

カラス神父がメリン神父に洩らしたように、どうしてあんないたいけな少女があのような目に遭わなければならないのか。納得のいく理由などない。

この映画は、よく子どもの非行化への恐怖を重ねて見る向きもあるけれど、少なくともこの『エクソシスト』で描かれているのは「積み木くずし」的な“非行”というよりはハッキリと病理学的な理由での異変だし、そもそも「実話をもとにした話」みたいなふれこみで原作も書かれているんだけど、リーガンのモデルとなった少年は実際には映画のようなことは起こしていないし、史実から大幅に、ほぼフィクションと言っていいほど物語を膨らませている。

むしろ、映画を観た観客の中に作品に感化されて常軌を逸した行動をとる者たちが出て、そちらの狂気の方がよっぽど凄惨だったりもする。その辺は高橋ヨシキ・著「暗黒映画入門 悪魔が憐れむ歌」で詳しく書かれています。

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2017年に日本で公開されたクロエ・グレース・モレッツ主演の『彼女が目覚めるその日まで』(感想はこちら)は実話をもとにした映画だったけど、そこで主人公が患った病気は『エクソシスト』の主人公のモデルとなった少年と同じものだったのではないかと言われている。

それは悪魔憑きでもなんでもなくて、れっきとした病気であった。

原因がわからないと、時に人はそれを悪魔や悪霊などの超常的なもののせいにしてしまったりするけれど、問題の原因を医学的、科学的に究明するというのはほんとに重要ですよね。根拠のないデマや噂が飛び交う現在こそ、なんにでも飛びつくのではなくて何が正しくて何は間違っているのかしっかりと見極めたい。

そういえば、どーでもいいことなんだけど、劇中でリーガンが思いっきり女性器の名称(かつて松本明子さんが生放送で口走って干された例の単語です。しかもあちらでは頭に“お”を付けてたけど、今回はそれもない三文字)を叫んでいて字幕にも出ていた。

90年代に『羊たちの沈黙』(感想はこちら)で、主人公のクラリスが囚人のミグズに同じ放送禁止用語で罵られて精液をぶっかけられていた。DVDでは確か「アソコ」に変えられていたっけ。

洋画の日本語字幕であの単語が書かれることってめったにないので(AV以外で耳にすることもそんなにないだろうし)、たまに目にするとインパクトありますよね。

キック・アス』(感想はこちら)ではクロエちゃん演じるヒット・ガールがやはり「行くわよ、お○○○野郎」と言っていた。『エクソシスト』も『キック・アス』も未成年の少女にあんなこと言わせてたわけで、英語の原語聴いてもなんとも感じないけど日本語のあの単語はさすがにヒく^_^;

クロエ・グレース・モレッツは子役から成長して現在も日本軍やグレムリンと闘ったりして活躍してますが、リーガン役のリンダ・ブレアさんはなかなか苦戦したようですね。

エクソシスト』の悪魔が憑依したあとのリーガンは醜悪な顔になって卑猥な言葉を叫んだり、母親の死に対して罪の意識があるカラス神父の弱みにつけ込むようなことを言ったりやったりして彼を苦しめるんだけど、時々ちょっと呆けたような表情になってそれが妙に可愛かったりした。あの顔を「可愛い」などと感じるのも我ながらどうかと思うが(;^_^A


なんか、現実の方がホラー映画よりもずっと悲惨なことになっているので、あの程度で全米が恐怖に震えたというのが信じられないというか、キリスト教徒はとことん頭が悪いのかな、などと宗教差別的なことを考えてしまったのだった。

まぁ、たとえばこれが舞台が日本で、もっと日本の風土に根差したような恐怖が描かれていたら、日本の観客も似たような反応を示したかもしれませんが。

宗教的なバックボーンがあってこその恐怖というのがあるわけで、人は何かを支えにして生きているからこそ、それが揺るがされたりそれに反するものが力を持って迫ってきたと感じると恐怖が生じる。

宗教、というと、僕らのこの国だって全然無関係じゃないですが。


恐ろしいのは悪霊よりも人間そのものだと思う。狂った人間が正常な人々を無残に傷つけたり殺したりするんだから。

エクソシスト』という映画自体は、少女が部屋の中で暴れる、というだけのささやかにもほどがある規模のホラーだったんですが。そりゃ、我が子があんなことになったら親としてはたまったものではないけれど。

エレン・バースティンさんは『エクソシスト』の撮影で監督にはなかなか酷い目に遭わされたみたいだけど、でも彼女は90歳の現在もお元気で何よりだし、最新作にも1作目と同じクリス役で出演しているそうなので、『エクソシスト』という映画自体には恨みはないようですね。


ディレクターズ・カット版で付け加えられた“スパイダーウォーク”には笑ってしまったし、これ見よがしにサブリミナルで挿入される恐ろしい顔も僕にはかえって恐怖感を削ぐ蛇足に思えてならなかったんだけど、でも、いろいろとサーヴィス満点で娯楽作品としては悪くないのかもしれない。


ディック・スミスによるリーガンの特殊メイクはお見事だったけど、何よりも驚きだったのは老人であるメリン神父を演じたマックス・フォン・シドーは撮影当時まだ43歳だったこと。あの老けメイクが一番スゴいかも(^o^)



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